図5-31 実験配置
図5-32 Naサンプルとイメージング装置
図5-33 Naを透過した紫外線の照明により取得したメッシュ像
金属表面は金属光沢を示しますが、これは金属内部を自由に動き回る電子の集団が、極性が周期的に変化する電界により規則的に振動し、その振動により入ってきた光と同じ周期の光を逆向きに放出する(反射)ことにより生じると解釈されています。紫外線のように周期(波長)が短い光では入ってきた光の極性の変化が速過ぎて電子の集団がその変化に追いつかなくなります。この境界の波長をプラズマ波長と呼びます。この波長より短い波長の光は金属の中に侵入します。侵入した光は金属中の自由電子にエネルギーを与えながら進み、かつその電子が周囲の電子や格子振動にエネルギーを与え、その結果、光は金属中で大きな減衰を受けます。実際、様々な金属の紫外線に対する透過率が調べられていますが、これまで厚さ数mmの金属を透過したとする報告はありません。ナトリウム(Na)の紫外線域における反射率の低下を示す研究は1930年代にさかのぼります。1960年代には蒸着により作成した厚さ1 μm未満の薄膜を用いた透過率の測定が行われています。Naは単純な構造の原子ですが空気中の水分と激しく反応して短時間で性質が変わるため、化学的に安定した分厚い純粋な試料の作成が難しいという特徴があります。光学定数をまとめたハンドブックによりますと、とりわけNaは正確な透過率の取得が困難であるとされています。
これらを踏まえ私たちはNa専用グローブボックス内でフッ化マグネシウム(MgF2)という紫外線を通す特殊な窓材と金属容器でNaを挟み込むことで化学的に安定な分厚い試料の作成に成功し透過率の正確な計測を可能にしました。その結果、波長115〜170 nmの光が厚さ数mmの固体Naや温度を150 ℃まで高くしたときの液体Naを透過することが明らかになりました。透過率を調べることにより、可視光における金属光沢が紫外線中の上記波長域では消え去り、光がNa中に侵入し、数mm以上にわたり透過することが明らかになりました。確証のため厚さ8 mmのNaを透過した紫外線を照明に用いた金属メッシュのイメージングを行いました。実験配置を図5-31、Naサンプルとイメージング装置の写真を図5-32に示します。またNaを透過した紫外線の照明により取得したメッシュ像を図5-33に示します。この実験においても上記波長域における高い透過率が示されました。今後は物理的メカニズムの解明、この現象の原子力分野や工業への利用を目指します。