9-5 JT-60SAに向けたJT-60トカマクの解体

−放射化大型構造体の解体−

図9-13 JT-60解体前の本体室

図9-13 JT-60解体前の本体室

JT-60トカマク本体を中心に本体付帯設備,計測装置,加熱装置等の周辺設備があり、狭隘複雑な空間を形成しています。

 

図9-14 JT-60解体後の本体室

図9-14 JT-60解体後の本体室

2012年10月、JT-60トカマクの解体が無事故・無災害で完遂され、2013年1月からJT-60SAの建設が開始しました。

 

図9-15 ダイヤモンドワイヤソーシステム

図9-15 ダイヤモンドワイヤソーシステム

ダイヤモンドワイヤソーはダイヤモンドチップが埋め込まれたφ10 mmのワイヤです。冷却水を用いることなく、汚染水がない乾式で、異種金属を効率良く切断できました。

臨界プラズマ試験装置(JT-60)は、日欧共同で進めるサテライト・トカマク計画として、長パルス化と高圧力プラズマを目指す超伝導核融合実験装置(JT-60SA)に改修するため、解体・撤去する必要がありました。

JT-60は、放射線障害防止法に基づく国内唯一の大型核融合実験装置であり、1991年から2008年の18年間の重水素実験で発生した中性子によりトカマク本体及び周辺機器は放射化していました。そのため、今回の解体は、核融合実験装置の解体として放射線障害防止法に基づいて行う国内初の試みであるとともに、将来のクリアランス制度の適用を考慮して行うものとして世界的にも類がないものでした。JT-60トカマクの解体は、2009年から着手し、2012年10月に完遂し、その総重量は約5400 tに達しました。図9-13,9-14に解体前後の本体室を示します。

この解体においては、トロイダル磁場コイル(TFコイル)の補強部の切断方法と真空容器とポロイダル磁場コイル(PFコイル)の一体構造体を分割する切断方法の二つが大きな技術的課題でした。

TFコイルは、大電流化改造時に電磁力や転倒力により掛かる力を抑えるために、2個1組で上下2箇所の狭隘部で補強溶接が施されていました。TFコイルの解体にはこの補強溶接部を切断する必要があり、この狭隘な場所で難削材の高マンガン(Mn)鋼を切断するため、小型でかつ分解して持ち込んだあと、狭隘部での再組立てが可能な専用のフライス加工機を開発し、この課題を解決しました。一方、TFコイルを撤去した真空容器とPFコイルの一体構造の重量は約320 tもありました。建屋クレーンの定格荷重は250 tであり、この制限を超えないように、この一体構造体を二分割する必要がありました。真空容器の材質は、難削材のインコネル,PFコイルは無酸素銅と高Mn鋼の固定材からなる複雑な構造体であり、二分割のためには、異種金属を同時に切断する必要がありました。3種類の金属と同じ試験体の切断を実施した結果、冷却水を用いない乾式ダイヤモンドワイヤソーにより、一括切断が可能であることを見いだし、汚染水を発生しないで、この二分割を実現しました(図9-15)。

これらの解体工法を用いることによりTFコイルの吊り出しや真空容器の切断等の主要作業を効率良く安全に行うことができました。このJT-60トカマクの解体の実績は、核融合研究施設以外の原子力関連施設の解体に対してもノウハウになると考えております。