1-12 被覆管成分が増えると燃料デブリはどうなるか

−燃料デブリ取出しのために役立つ硬さ等の特性評価−

図1-27 模擬デブリ試料の外観及び断面
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図1-27 模擬デブリ試料の外観及び断面

(a),(b)は被覆管成分であるZrO2濃度が10mol%,65mol%の模擬デブリ試料の外観です。(c),(d)は電子顕微鏡によるそれらの断面の観察画像です。外観に大きなひび割れ等はなく、断面には斑点状に10〜40 μm程度の結晶粒が確認できます。

 

図1-28 ZrO<sub>2</sub>濃度と各物性値の関係
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図1-28 ZrO2濃度と各物性値の関係

(e)ビッカース硬さ,(f)破壊靭性,(g)弾性率とZrO2濃度の関係を示したグラフです。特に、ビッカース硬さは被覆管成分であるZrO2濃度の影響を大きく受けており、この濃度が増加すると硬くなる傾向があることが分かります。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉に向けた重要な課題の一つは、安全かつ確実に溶けた燃料等(燃料デブリ)を取り出すことです。1F内における燃料デブリの取出し作業に着手する前には、その工法・装置を検討するために核物質を含まない材料を用いた試験等の実施が想定されます。その際に用いる材料を適切に選定するため、燃料デブリの特性をあらかじめ推定しておくことが重要となります。本研究では、米国スリーマイル島原子力発電所2号機(TMI-2)事故の経験を参考に、取出し装置として有効なものの一つと想定されるコアボーリング装置に着目し、その動作原理から掘削性に影響を及ぼすと考えられるビッカース硬さ,破壊靱性,弾性率を燃料デブリの特性として実験的に評価しました。

燃料デブリの主要な成分は、過去の過酷事故研究やTMI-2事故の事例から、燃料中の酸化ウラン(UO2)と被覆管の主要な材料であるジルコニウム(Zr)の酸化物 (ZrO2) の混合酸化物 (U,Zr)O2と考えています。沸騰水型原子炉 (BWR) である1Fでは、炉内の構成材料におけるZrの割合が高く、加圧水型原子炉 (PWR)であるTMI-2に比べて燃料デブリ (U,Zr)O2中のZrO2濃度は値に幅が出ることが予想されるため、この濃度をパラメータとした模擬燃料デブリ試料を電気炉で作製し(図1-27)、その物性値を測定しました(図1-28)。

その結果、ZrO2濃度が50mol%以下の範囲では、酸化物(U,Zr)O2のビッカース硬さ(図1-28の(e))及び破壊靭性(図1-28の(f))は、ZrO2濃度とともに増加することを確認しました。弾性率(図1-28の(g))については、ZrO2濃度の増加に対してわずかな減少傾向を示しました。ZrO2濃度が50mol%を超えた場合、全ての物性値がZrO2濃度とともにわずかに増加しました。以上の結果をまとめると、ZrO2濃度が50mol%以下では、ZrO2濃度が機械的物性に与える影響が大きく、一方それ以上ではZrO2濃度とともにわずかに増加する傾向であることが分かりました。

今後も上記以外にも炉内に存在すると推定される様々な物質について、硬さ等の物性に関するデータを蓄積していく計画です。これらの情報は、燃料デブリの取出しに使用する装置の開発や試験に使用する核物質を含まない模擬燃料デブリの選択等に活用される予定です。

本研究は、原子力機構が国際廃炉研究開発機構の組合員として実施した経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備事業」の成果の一部を含みます。