図1-29 (a)過酸化ウラン四水和物の黄色懸濁液と(b)純水に浸漬したUO2ペレットの観察像
図1-30 黄色懸濁液中の過酸化ウラン四水和物の粒度分布
図1-31 三酸化ウラン水和物の観察像
東京電力福島第一原子力発電所事故では、高温になった燃料が被覆管や構造材とともに溶融し、一部は冷却水中に落下したと予想されます。このような急冷条件では、燃料デブリは細粒化する可能性があり、さらに酸化などで細粒化は一層進むとされています。また、燃料デブリ取出し作業の際の切削などでも微細な粉末が発生します。しかし、水中で細粒になった場合の化学的挙動はこれまで明らかにされていませんでした。
燃料デブリを冷却水中に長期間浸漬した際の化学変化と微細化の現象を検討するため、燃料デブリ成分を模擬したUO2を、純水,海水成分のNaCl水溶液(26wt%),水の放射線分解で生成する過酸化水素水(10wt%),制御棒由来及び臨界防止のため添加するホウ酸水溶液(1.64wt%)にそれぞれ浸漬し、50 ℃で1ヶ月間静置しました。その結果、化学的変化には過酸化水素水が最も影響し、図1-29に示すように、全量のUO2が酸化して、過酸化ウラン四水和物(UO4・4H2O)を含む黄色懸濁液が生成しました。図1-30に示すように、この懸濁液中の粒子の粒径は1 μm以下と微細で、コロイド的性質を示すことが分かりました。一方、ほかの水溶液中ではUO2の化学変化や微細化がほとんど起こりませんでした。
次に、赤外吸収法により浸漬物とホウ酸との化学結合性を調べました。その結果から、ホウ酸成分はデブリ取出し時にほとんど付随しないことが予想されます。さらに加熱温度や湿度による水和水変化について調べた結果、過酸化ウラン四水和物は、300 ℃での加熱処理で水和水を失って橙色の三酸化ウラン(UO3)になるものの、UO3は室温での吸湿により容易に水和水を持つことが分かりました(図1-31)。
以上のように、微細な燃料デブリについて、中性子吸収材であるホウ酸との化学的親和性が低く、中性子減速材である水と結合しやすい性質があることが分かりました。なお、収納保管時等の未臨界評価は、燃料デブリに付随するホウ酸は考慮しないなど、保守的に行う予定となっています。
本研究は、原子力機構が国際廃炉研究開発機構の組合員として実施した経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備事業」及び平成25年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金」補助事業の成果の一部を含みます。