4-10 太平洋上の環境負荷物質を追跡する

−東日本大震災により流出した震災漂流物の予測シミュレーション−

図4-24 SEA-GEARNの概念図

図4-24 SEA-GEARNの概念図

SEA-GEARNは大気・海洋大循環モデルで計算された海上風や海流のデータを入力し、海流による移流・拡散や放射性崩壊を計算し、放射性核種や震災漂流物を模擬した粒子の位置や海水中濃度を出力するモデルです。

 

図4-25 (a)2012年3月と(b)2016年5月の震災漂流物の分布
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図4-25 (a)2012年3月と(b)2016年5月の震災漂流物の分布

デブリ1は完全に水没している震災漂流物で、デブリ2,3,4はそれぞれ海面下の体積に対する海面上の体積比が1,2,4の震災漂流物です。

 


私たちは、放射性核種等の環境負荷物質が海洋環境に与える影響を考慮するため、海洋中放射性核種移行モデル(SEA-GEARN)(図4-24)の開発を進めています。これを活用して、国内の研究機関等と協力し、東日本大震災に伴う津波により流出した木材やプラスチック等の大量の震災漂流物の予測シミュレーションを実施しました。震災漂流物は、太平洋上を長期間漂うことが予想され、海洋の生態系や海岸の環境に悪影響を与える可能性があります。そのため、震災漂流物の分布を把握することは、海洋環境に与える影響を評価するとともに、予想される環境汚染を事前に防ぐ上で重要です。

宇宙航空研究開発機構による陸域観測技術衛星の画像解析から得られた震災漂流物の分布を予測シミュレーションの初期条件としました。2011年3月から2013年9月までは、気象庁気象研究所の海洋データ同化システムにより得られた海流と海上風のデータを入力データとした予測シミュレーションを実施しました。本研究では、2013年10月から2016年6月が将来予測となっており、海洋研究開発機構により計算された将来の海流と海上風の予測データを入力データとしました。震災漂流物には木材やプラスチック等の浮力が異なる様々な物が含まれており、海面から露出している部分は海上風の影響を直接受けます。この効果を考慮するため、震災漂流物を海面上と海面下の体積比が異なる四つの種類に分けました。

震災漂流物は、震災直後は主に南東方向に流され、黒潮に続く強い東向きの海流により、北太平洋上を東向きに流されたと考えられます(図4-25(a))。震災漂流物の分布は、日本政府が収集した震災漂流物の目視情報と良い一致を示しました。また、主に2012年に報道されたカナダ沖の漁船等の漂着情報とも良い一致を示しました。一方、将来予測により、 アメリカ合衆国西海岸沖に到達した震災漂流物は、その後は主に南西方向に流され、北太平洋南部に広く分布し、特にハワイ諸島付近に集まる傾向があることが予測されました(図4-25(b))。今後は、数種類の海流と海上風の将来予測データを使用して、震災漂流物の将来予測シミュレーションの信頼性を高める予定です。

本研究は、環境省からの受託研究「平成25年度東日本大震災に伴う洋上漂流物に係る緊急海洋表層環境モニタリング調査業務」の成果の一部です。