4-2 二つの非破壊元素分析法の有機的融合

−大強度パルス中性子による新しい元素分析法開発−

図4-4 従来の元素分析法で得られるスペクトル
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図4-4 従来の元素分析法で得られるスペクトル

(a)即発γ線分析、(b)中性子共鳴捕獲分析においてCo, Ag, Au, Cd, Taの混合試料を測定した際に得られるスペクトルを示しています。ここでCoに着目すると、どちらの分析法でも他の元素とピークが重なってしまい、正確な分析値を得ることが困難になっています。

 

図4-5 新しい元素分析法で得られるスペクトル
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図4-5 新しい元素分析法で得られるスペクトル

(c)は混合試料を新しく開発した分析法で測定した際に得られる三次元スペクトルです。(d)と(e)は、二つの分析法から得られるデータの相関を用いてCoを抽出することができ、ほぼ純粋なピークが現れることを示しています。このピークを解析することによって正確な分析値が得られます。

 


非破壊元素分析は、試料がそのまま再利用でき、余計な手間をかけずに短時間で結果が得られる等の利点があるため、放射性物質や科学的に重要な試料、希少価値の高い試料を分析する際に欠くことのできないツールとなっています。それらの試料は多くの研究成果をもたらすと期待されていますが、元素構成が複雑な混合試料などの場合に、従来法では分析できないことも多く、非破壊分析法のブレークスルーが切望されていました(図4-4)。

即発γ線分析は、中性子が捕獲される際に放出される電磁波のエネルギーとその強度を測定することによって元素の種類と含有量を知ることができる手法です。中性子共鳴捕獲分析も非破壊分析法ですが、こちらは中性子が元素ごとに異なるある特定のエネルギーを持つときに、非常に良く中性子を捕獲する特性を利用した手法です。二つの分析を同時に行うことができれば、それらの結果を一度に得ることができるだけでなく、融合による相乗効果を利用することによって、どちらの手法を用いても分析が困難である元素でも測定できるようになると期待されます。二つの分析法の融合のためには同一の検出器で電磁波のエネルギーと中性子のエネルギーを同時に測定しなければなりません。しかし、即発γ線分析に用いられるゲルマニウム検出器は、時間特性が悪く中性子損傷に弱いなどの理由から中性子エネルギーの測定に用いることが困難でした。

私たちは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)中性子核反応測定装置(ANNRI)において得られる世界最高強度のパルス中性子ビームを利用することに加えて、検出器の高効率化及び高速・高機能データ収集系等の開発によりゲルマニウム検出器の時間特性を補い、さらに高性能遮へいによって損傷を最小限に抑えた結果、ゲルマニウム検出器による高精度中性子エネルギー測定を可能とし、二つの分析の融合に世界で初めて成功しました。また、期待された融合による相乗効果を、混合試料を用いた実験により実証し、高精度な分析が可能であることを示しました(図4-5)。

今回開発した分析法は、放射性物質の分析や、宇宙化学,考古学,地質学,環境などの分野における試料(例えば、隕石,土器,金属器,深海試料など)に有効であると考えています。