4-8 再処理技術の基盤強化に貢献するデータ集の完成

−再処理プロセス・化学ハンドブック第3版−

図4-21 硝酸水溶液/30vol%リン酸トリブチル−炭化水素希釈剤系での(a)ウラン(VI),(b)プルトニウム(IV)の分配比
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図4-21 硝酸水溶液/30vol%リン酸トリブチル−炭化水素希釈剤系での(a)ウラン(VI),(b)プルトニウム(IV)の分配比

再処理で重要な主要元素について、各国で報告された分配比データをまとめて可視化しました。これにより硝酸濃度,元素濃度等に対する分配比の依存性が容易に把握できるようになり、元素ごとの分配挙動の違いも明らかになりました。

 


原子力発電所から排出される使用済ウラン燃料の再処理法として、これまで多くの実績を有するピューレックス法があります。青森県六ヶ所村では、この方法を適用した大型再処理工場の操業運転に向けた準備が進められています。

将来想定される高燃焼度燃料や混合酸化物(MOX)燃料の再処理では、核分裂生成物やプルトニウムの取扱量がこれまでよりも多くなり、また放射線量も高くなることから、溶解,抽出分離,高レベル廃液の処理等,各工程における影響を十分に考慮することが重要であり、技術基盤をさらに強化することが必要です。

私たちは、再処理技術基盤強化に貢献するため、ピューレックス法に関する様々なデータ及び燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)での使用済燃料を用いた試験から得た知見を取りまとめ、「再処理プロセス・化学ハンドブック」として、これまで2001年に第1版、2008年に第2版を原子力機構の研究開発報告書類として刊行してきました。これらは多くの再処理分野の研究者,技術者に利用されてきました。そして、この度、ハンドブックのさらなる信頼性、有用性の向上を目指し、2015年3月に第3版を刊行しました。作成にあたっては、国内の大学,企業,原子力機構の有識者からなるオールジャパン体制の検討委員会を設け、特に学生や若手の研究者,技術者にとって利用しやすいものとなるよう議論を進めました。

第3版の狙いとしては、主に文献調査によって技術情報の大幅な拡充と信頼性を向上させたほか、東日本大震災の教訓を踏まえ、プラントの平常運転時に加えて異常時の放射性物質の挙動評価にも利用できる情報を追加しました。

具体的には、冒頭にピューレックス法再処理の概要説明の追加,固体析出物や不溶解残渣,高レベル放射性廃液のデータの充実,高温条件での物質の移行挙動や引火点等の熱的性質の追加,溶媒抽出工程において重要なウラン(VI),プルトニウム(IV)等の主要元素の分配データの整理と可視化(図4-21),軽水炉使用済燃料による試験に加えて高速炉燃料による試験研究に関する記述の追加が挙げられます。

湿式再処理技術の知識と経験はこれまで各国で蓄積されてきており、それらを整理し次世代へ継承していくことが核燃料サイクルの推進にとって重要と考えています。このハンドブックが広く活用され、今後の技術開発に役立てられることを期待します。