図4-18 レーザーアブレーション(LA)装置による分析前処理の迅速・簡便化
図4-19 LA装置の原理
図4-20 固体試料測定により得られた希土類元素存在度パターン
希土類元素群(Sc, Y, 及びランタノイド15元素)は、産地ごとに特徴的な存在度パターンを示すため、様々な地球科学的活動の解明に利用されています。また、ウラン(U)鉱石やU精製加工物に不純物として含まれ、その存在度パターンによってUの産地を特定できることから、核物質規制の観点からも注目を集めています。本研究では、希土類14元素を対象とし、迅速に存在度パターンを得るための分析法を開発しました。
極低濃度の希土類元素分析には、一般に誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)が用いられます。ICP-MSは、液体試料中に10-9 g/L レベルで存在する多数の元素や同位体を同時に検出することができます。しかし、試料溶液中に測定対象元素(同位体)と同じ質量数のイオンが存在若しくは装置内部で結合生成される場合、質量スペクトルの干渉が起こり正しい分析値が得られないことがあります。特に極微量の希土類元素分析では、バリウム等が装置内部で酸化物を生成し、希土類元素に干渉することが問題となります(例:135Ba16O→151Eu)。このような酸化物生成による干渉は、固体試料の導入を可能とするレーザーアブレーション(LA)装置を用いることで回避できます。
本研究では、U試料溶液中の希土類元素を陽イオン交換樹脂に濃縮し、Uやその他の共存成分が除去された状態の樹脂を直接測定するという従来にない手法を適用しました(図4-18)。これにより、U試料中に極低濃度で存在する希土類元素を効率良く迅速に測定できるようになります。また、LAではレーザー照射によって試料表面の一部を蒸発・微粒子化して直接ICP-MSへ送る(図4-19)ため、16O供給源となる溶媒が存在しない状態で測定でき、酸化物の生成が抑制されます。ウラン試料中の希土類元素分析結果(図4-20)から、固体試料測定(LAモード)では、希土類元素を精製した溶液を用いた溶液試料測定(通常モード)と同様の存在度パターンが得られることが分かりました。したがって、LAによって溶液試料測定で必要な化学分離操作を省略できるだけでなく、酸化物による干渉が大幅に低減され正確な分析値が得られることが実証されました。
本研究で開発した方法は、核鑑識(科学分析に基づき核物質の密輸や不正取引を探知して核テロ等の犯罪行為を抑止するための手段)にも応用可能で、核物質の産地や移送ルートを特定するための有力な情報を提供する新しい技術として期待されます。