図4-15 除染廃液からのUの高選択的な抽出
図4-16 除染廃液中の固形成分が除去される様子
図4-17 エマルションフロー装置による除染廃液中Uの除去試験の様子
人形峠環境技術センターでは、設備・機器のクリアランス等に伴う除染によってウラン(U)を含んだ多量の廃液が発生しています。廃液処理によって、Uは放射性スラッジ(汚泥)に移行することから、スラッジ中のU量を低減して処分しやすくするために、除染廃液から高選択的にUを除去する必要があります。これまでは、イオン交換樹脂やキレート樹脂などによるU除去を検討してきましたが、処理速度や経済性が課題となっていました。
ここで紹介する“エマルションフロー法”とは、処理対象となる廃液(水相)の中に、 抽出剤を含む有機溶媒(有機相)を微細な液滴として噴出させることで、両相が混合・乳濁したエマルション流を発生させることを原理とする簡便・安全・低コストな溶媒抽出の新手法です。両相をエマルションに至るまで十分に混合できるため、抽出率が高く、相分離能が高いため、小型・シンプルな装置で迅速に廃液等を浄化処理できます。この方法により、様々な種類の金属元素が共存する中から、Uだけを除去できます(図4-15)。また、エマルションフロー法では、水に溶けている成分を溶媒抽出によって回収するとともに、水に溶けずに浮遊している固形成分(粒子成分等)も、水相と有機相の間の液液界面に凝集させることで回収・除去できます(図4-16)。この方法では、イオン交換樹脂等を用いる従来法よりも格段に迅速(10倍以上)・高効率に、小型・シンプルな装置で簡便・低コスト(5分の1以下)に、除染廃液を処理できます。
実用規模の約半分の大きさのエマルションフロー装置(図4-17)を用いて、1時間に60〜90 Lの除染廃液(人形峠環境技術センターでの実廃液)を処理する試験を行った結果、除染廃液中のU(3 Bq/cm3)を排出基準値(0.0022 Bq/cm3)のU濃度以下にまで迅速に除去すること、及び除染廃液に含まれる固形成分を装置内の浮遊物トラップに集めて同時除去することに成功しました。また、同じ装置を3段つなげれば、除染廃液中の99.9%以上のUを回収可能であることも分かりました。
エマルションフロー法は、国内のUを含む廃液の処理に広く役立つと期待できます。この新技術は、原子力分野以外にも、工場からの排水の浄化や廃液からのレアメタルの回収などに利用できることから、様々な産業分野で注目を集めています。
本研究は、第47回(平成26年度)日本原子力学会賞技術賞を受賞しました。