図5-6 レーザー駆動型重イオン加速実験
レーザー駆動型粒子線加速は、一般的な高周波加速電場に比べ、6桁程度高い加速電場強度を達成できるため、加速器を圧倒的に小型化できる技術として国内外において精力的に開発が進められています。
関西光科学研究所のJ-KAREN レーザーは、ペタワット(1015 W/cm2)級の強いレーザー光を出射でき、直径数ミクロンの小さな領域に集光すれば、発生する光強度は1021 W/cm2を超え、光電場強度は〜100 TV/mに達します。固体薄膜がそのような強い光電場にさらされると、瞬時にプラズマ化されるとともにプラズマ中の高密度電子が光の強力な輻射圧でレーザー進行方向にほぼ光速で押し出されます。その結果、薄膜裏面にはプラスの電荷を持つポテンシャルにより、強い電場(シース電場)が形成されます。このシース電場は原子内の核と束縛電子(軌道電子)の間のクーロン引力より強いため、たとえ重原子や重イオンであってもその束縛電子を一気に剥がされ、ほぼ完全電離されるとともに高エネルギーにまで加速されます。すなわち、既存技術では困難な多価状態の重イオンの加速が可能です。
私たちは、図5-6に示すように200 TWのJ-KAREN レーザーを1021 W/cm2の強度でターゲット上に集光することにより、重イオンをGeV領域の高エネルギーまで加速することを目的として研究を行いました。この研究では、原子核として安定な鉄イオンを用いて実験を行いました。具体的には、厚さ0.8 μmのアルミ基板の表面に被加速粒子である鉄を粒子数の比で0.5%塗布したものをターゲットとして用いました。基板の厚さは、同時に加速される陽子線の最大加速エネルギーをモニターし、ターゲット裏面に形成される電場強度が最大になるよう、あらかじめ実験的に評価して採用しました。加速された鉄のエネルギースペクトルは、ネオンより重い核種のみに感度がある固体飛跡検出器(ポリイミド薄膜)を積層したものを採用し、ほかのイオンとの峻別を図りました。また、鉄イオンの電荷状態は、X線分光装置によって計測しました。この結果、世界で初めて全ての電子を剥がされた状態(完全電離)に近い鉄のイオン(Fe+25)を16 MeV/uのエネルギーにまで加速することに成功しました。
この研究結果は、コンパクト・高効率なレーザー駆動型重イオン加速器確立へ向け大きな前進を遂げたことを意味しています。