図5-7 TMI-2キャニスターに対する吸収NRF分析実験の図面
図5-8 27AlのNRF ピーク
図5-9 2982 keV 核状態の吸収量
γ線透過原子核共鳴蛍光散乱法(transmission Nuclear Resonance Fluorescence:γ線透過NRF法)は使用済燃料中の239Pu量をはじめとした核物質を精密に非破壊分析するための有望な方法です。原子核共鳴蛍光散乱 (NRF) は原子核がγ線を共鳴吸収して励起し、直後に一つ以上のγ線を放出して脱励起する現象です。米国スリーマイル島原子力発電所2号機(TMI-2)事故では、取り出した溶融燃料をキャニスターに収納し将来の再汚染の可能性を最小にする措置が取られました。そこで用いられたTMI-2キャニスターは、東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置においても溶融燃料収納容器として用いられる可能性があります。私たちは、TMI-2キャニスター内の物質(例:Pu)の非破壊分析に対して透過NRF法の適用可能性を実証するために、米国ノースカロライナ州のデューク大学HIγS(レーザー・コンプトン・γ線施設)で実験を行いました(図5-7)。
実証実験では239Puと同様の共鳴特性を持つ27Alを模擬物質とし、TMI-2キャニスターと等価なコンクリート,鉛,ステンレス鋼(SUS)をγ線ビームライン上に並べました。キャニスター内の物質に対して、鉛(ウランを模擬)と水も並べました。γ線透過NRF法では、ビームライン上流の被測定物における共鳴吸収の大きさを、下流に配置した標準試料(ここでは27Al)からの共鳴散乱の減少量により評価します。共鳴散乱の減少量は、被測定物内部のγ線経路上の対象核種の量に比例します。模擬TMI-2キャニスター及びコンクリートやアルミニウム金属等、複数の同位体を含んだ被測定物について、アルミニウムによるγ線吸収量を2980 keVのγ線エネルギーにて測定しました。
図5-8は、γ線フラックスで規格化した標準試料からの散乱γ線スペクトルです。上流の被測定物の違いによる共鳴散乱ピークの減少が確認できます。被測定物の有無の計数率の比(R(na))は、被測定物の組成と核データから予想した値と一致しています(図5-9)。TMI-2キャニスターにγ線透過NRF法による核種分析を適用する場合、複数核種の共鳴の重複が分析の妨げとならないことを実証しました。これは、Puを測定するときに、ほかの物質の存在が測定の妨害とならないことを示しています。