8-3 放射性廃棄物の核種組成の把握を迅速に

−キャピラリー電気泳動法を用いた分析法の開発−

図8-8 キャピラリー電気泳動法による簡易分析法の開発

図8-8 キャピラリー電気泳動法による簡易分析法の開発

内径0.05 mm,長さ50 cm程度のガラス製毛細管(キャピラリー)の中でイオンを泳動させ、移動速度の違いにより分離する方法で、コンパクトな装置を用いて極少量の試料で非常に高分離性能を発揮することで知られています。

 

図8-9 ネオジム(Nd)イオン用蛍光プローブ(L)

図8-9 ネオジム(Nd)イオン用蛍光プローブ(L)

基本骨格は、検出感度を向上させるための発光部位とNdイオンと結合するための部位(大環状6座型)から成り立っています。

 

図8-10 Nd錯体の電気泳動図

図8-10 Nd錯体の電気泳動図

蛍光プローブ(L)を用いることにより、様々な金属元素が共存する使用済燃料溶解液中のNdを分離検出することに成功しました。

 


放射性廃棄物を処分するためには、廃棄物に含まれる放射性核種の濃度と割合(核種組成)を把握することが必要です。核燃料の再処理を行う施設などでは使用済燃料を起源とする廃棄物が発生し、その核種組成を求める方法として核燃料の燃焼度と関連のあるネオジム(Nd)の濃度から推定する方法が提案されています。使用済燃料中のNdの濃度を求めるためには、多量に含まれるウラン(U)の中からランタノイド(Ln)を分離すると同時に、化学的性質が類似したLn群からNdを分離することが求められます。従来法は操作が煩雑であり、長時間を要するため、簡易に分析し、分析者の被ばく量を低減できるキャピラリー電気泳動法(CE法)(図8-8)による簡易分析法の開発を進めています。CE法の検出には、一般に吸光検出法が採用されていますが、検出限界値がppm程度と使用済燃料中のNdの分析への適用が難しいため、千〜百万倍の高感度化が見込める検出法として近年注目されているレーザーを用いた蛍光検出法に着目しました。

本開発では、大幅に高感度化が期待できるキャピラリー電気泳動-レーザー励起蛍光検出法(CE-LIF法)を用いてLnを検出するための蛍光プローブを開発し、分離が困難なLn群からNdの分離検出を行いました。蛍光プローブの基本構造は、(1)検出感度を向上させるためレーザー光を吸収し、蛍光を発生させる部位(発光部位),(2)Lnイオンと結合する部位,(3)これらの距離を適切に保つスペーサーで構成しました。このうち、Lnの分離選択性を左右する鍵となるのは(2)の結合部位です。そこで本開発では、試料中に多量に含まれるUからLnに選択的に結合することが可能で、かつLn群を分離可能な部位を有するプローブを合成しました(図8-9)。このプローブとLnが結合した錯体は、泳動液(キャピラリー充てん液)に含まれる水酸化物イオンと反応することによってLn間の移動速度に差を生じることを見いだし、この性質を利用して泳動液のpHを調整することにより、Ln群の分離を達成しました。本法を使用済燃料溶解液の分析に適用したところ、様々な共存元素からNdを分離検出することに成功しました(図8-10)。本法は極少量の試料を数十分程度で分析できることから、作業時間を大幅に短縮することが可能となり、分析者の被ばく量の低減が期待できます。

本研究は、埼玉大学との共同研究「アクチノイドイオン適合型キャピラリー電気泳動用蛍光プローブおよびプローブ錯体の精密分離検出技術の開発」の成果の一部です。