図8-11 スケーリングファクタ法(SF法)を63Niに適用した例
表8-1 JPDR解体金属廃棄物に対する放射能評価手法
原子力機構は研究施設等から発生した低レベル放射性廃棄物を対象とする埋設処分を計画しています。放射性廃棄物を埋設する際には、処分場に受入れ可能な放射能濃度より低いことを確認する必要があります。しかしα線及びβ線放出核種は廃棄物容器の外部から直接放射能濃度を測定することが困難で(難測定核種)、個々に測定する際には廃棄物試料を酸で溶解するなど化学処理した後に測定する放射化学分析に多大な労力が必要となります。
そこで、放射性核種の生成機構及び廃棄物への移行挙動が同様の場合、廃棄物中の放射能濃度に相関関係が見込まれることから、廃棄物容器の外部から比較的測定が容易なγ線放出核種(60Coや137Cs)と組み合わせ、相関比(スケーリングファクタ,SF)を利用して放射能濃度を評価するSF法など、難測定核種の簡便な放射能評価手法を検討しました。本検討では、原子力科学研究所で保管量が多い動力試験炉(JPDR)の解体金属廃棄物を対象に、埋設処分の被ばく線量評価において寄与が大きく重要となる3H,14C,63Ni など16核種に対する放射能評価手法を検討しました。ここでは60Coと63NiのSF法の適用性を検討の一例として示します。
まず着目したのは放射性核種の組合せです。放射性核種は原子炉燃料からの中性子によって構造材料や構造材料の腐食物が放射化して生成するもの,原子炉燃料中のウランの核分裂によって生成するものなどがあります。60Coと63Niはどちらも放射化によって生成する核種で、原子炉冷却水中では化学的性質が類似しているため廃棄物の表面に同じように付着すると想定しました。また、実際に廃棄物試料の放射化学分析から得られた放射能濃度分布からも非常に良い相関関係が確認され(図8-11)、63Niは60CoとのSF法を適用できる見通しが得られました。
一方、3H,14Cなど揮発性の核種で廃棄物への移行挙動が60Coや137Csと異なる核種についてはSF法が適用できないことから、放射能濃度データの平均値など一定値で放射能濃度を評価する平均放射能濃度法の概念を適用しました。なお、もともと放射能が低く放射化学分析でも検出限界値以下であった核種は、検出限界値データの平均値を放射能濃度とすることとしました。
本検討によりJPDR解体金属廃棄物に含まれる16核種に対し、SF法,平均放射能濃度法などを組み合わせる放射能評価手法を構築しました(表8-1)。今後は本手法の考え方に基づき、他の研究炉廃棄物の放射能評価手法を検討する予定です。