8-5 瑞浪超深地層研究所の建設が周辺の地下水に与えた影響

−主にこの10年間の水質変化について−

図8-12 各深度の湧水量と地下水の観測地点
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図8-12 各深度の湧水量と地下水の観測地点

各深度の研究坑道から、地下水の水圧・水質観測用のボーリング孔を掘削し、定期的に水圧と水質の観測を行いました。地下水の湧水量は、地質条件や坑道との位置関係に応じて、深度ごとに異なっており、堆積岩中の礫岩層や花崗岩中の割れ目帯において多い傾向があります。

 

図8-13 地下水の水圧・水質の経時変化例(深度300 mと400 m)
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図8-13 地下水の水圧・水質の経時変化例(深度300 mと400 m)

研究坑道からの距離に応じて、地下水圧の低下に伴い地下水の水質が徐々に変化していることが確認できました。

 


地層処分場のような大規模な地下施設を建設し、長期間操業すると、地下水の水圧低下やそれに伴う水質変化など様々な環境変化が起こる可能性があります。本研究では、この可能性について具体的に確認するため、瑞浪超深地層研究所を利用して、研究坑道の掘削開始前から深度500 mまでの掘削が終了するまで、約10年間にわたって地下水の水圧と水質の変化をモニタリングしました。

研究坑道の掘削に先立ち、地上からボーリング調査を行い、地質・地質構造と地下水水質の初期状態を把握した後、研究坑道の掘削に伴う地下水の変化を把握するため、研究坑道から掘削した複数の観測孔(図8-12)において、定期的に水圧・水質観測を行いました。研究坑道の掘削中に坑道に湧水した地下水の量は、両立坑に設けた集水リング(WR)で地質ごとに図8-12のように計測されています。

観測の結果、深度50 m付近にある泥岩層より深い深度では、地下水の水圧が徐々に低下していることを確認しました(2015年3月時点で研究坑道から約100 mの範囲において坑道掘削前に比べ150 m [1.5 MPa] 程度の水位低下)。また、各観測点において水圧低下に伴う水質の変化を確認しました(図8-13)。観測結果を地質・地質構造ごとに整理するとともに多変量解析を行った結果、大規模地下施設周辺の変化について、以下の点を明らかにしました。

●坑道の掘削・維持管理時は、最深部の坑道周辺ではより深部からの地下水の上昇,最深部以外の坑道周辺では、水位低下に伴い浅部の地下水が浸透し、掘削初期に上昇した深部地下水と徐々に入れ替わる。水質の経時変化は、これらの異なる水質の地下水の混合状態の変化により引き起こされる。

●低透水性の地質・地質構造(堆積岩中の泥岩層や割れ目の少ない花崗岩,断層など)は、坑道の掘削に伴う地下水の移動を抑制する。一方で、割れ目の多い花崗岩や礫岩層など高透水性の地質・地質構造では、水圧低下や水質変化が大きい。

以上のことから、透水性の異なる地質・地質構造の三次元分布を踏まえて坑道のレイアウトを設計することで、湧水量を抑制し地球化学的な変化を低減させるとともに、大規模地下施設の周辺における環境変化を見込んだ総合的な監理が可能になると考えられます。

今後も、観測を継続し、研究坑道掘削のより長期的な影響を把握するとともに、研究坑道の閉鎖に伴う地下水環境の回復過程(地下水位の回復やそれに伴う水質変化など)の研究を行っていく予定です。