9-6 プラズマ計測でのノイズ効果軽減の新しい手法

−往復するレーザー光による信号を分離−

図9-17 ダブルパス散乱計測と出力信号

図9-17 ダブルパス散乱計測と出力信号

(a)プラズマ中に高エネルギーレーザーを往復させ、トムソン散乱光を2回計測します。LHD装置における分光器出力信号の例として長波長チャネルを(b),短波長チャネルを(c)に示しています。SVD法によりノイズ除去された(d)第一パス,(e)第二パスの信号強度成分です。

 

図9-18 LHD実験での第二パスで求めた電子温度の相対誤差(電子温度誤差/求めた電子温度)の比較

図9-18 LHD実験での第二パスで求めた電子温度の相対誤差(電子温度誤差/求めた電子温度)の比較

●はSVD法を用いてノイズ除去したケース,はノイズ除去を行わなかったケースです。

 


高エネルギーレーザーをプラズマ中に入射させると、レーザーの光路上のプラズマによりトムソン散乱光が発生します。その散乱光のスペクトルを分光器で計測することで、プラズマ中の電子温度や電子密度を推定できます。近年では、レーザーがプラズマを1回通過した後に、ミラーを設置し、レーザーを再度プラズマに入射させ、合計2回の散乱光を得るダブルパス散乱計測法が複数の核融合装置で開発されています(図9-17(a))。散乱角(レーザー進行方向と集光光学系の視線とのなす角)は、第一パスと第二パスで異なるために、2種類のスペクトルが得られることを利用し、システムの感度較正法の開発や磁場の水平方向と垂直方向の電子温度の違いの評価等に利用されています。

しかし、レーザーが装置本体の真空窓を複数回通過することから、乱反射による迷光が格段に発生しやすく、計測している散乱光と重なり、誤って信号強度が評価される難点があります。また、迷光の周波数成分は、散乱光パルスに類似しており、周波数フィルターによるパルス波形整形は効果ありません。そこで、周波数成分の分解を利用しない行列分解手法である特異値分解法(SVD法)のノイズ除去をトムソン散乱計測に応用すれば、純粋な散乱光波形が抽出できると考えました。

私たちは、核融合科学研究所との共同研究のもと、大型ヘリカル(LHD)装置にてダブルパス散乱計測法を利用した実験データを利用し、上記の効果について評価しました。分光器の代表的な二つの波長チャネルの出力波形を図9-17(b),(c)に示します。特に、図9-17(b)の長波長チャネルに強い迷光と思われる成分が現れています。今回は、全ての波長チャネルからの信号を一括し、SVD法を実行することで、共通する散乱光パルス波形を抽出しやすくしました。結果として、図9-17(d),(e)のような、ノイズが低減された第一パス,第二パスの散乱光パルスの共通成分を抽出することができました。このSVD法を用いて電子温度を推定した場合の誤差(最小二乗法により推定した検出器のショットノイズ由来の誤差)とノイズ除去を行わなかった場合の電子温度の誤差を比較した結果を図9-18に示します。SVD法を利用した場合、電子温度がより小さい誤差で計測できる傾向を示しています。本手法はJT-60SA装置のトムソン散乱計測においてもノイズ低減のために利用する予定です。