9-7 核融合原型炉の冷却材喪失事象の研究

−原型炉概念設計のための安全設計指針の確立に向けた取組み−

図9-19 真空容器外冷却水喪失時における放射性物質閉じ込め最終障壁の健全性確保の考え方
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図9-19 真空容器外冷却水喪失時における放射性物質閉じ込め最終障壁の健全性確保の考え方

最終障壁の健全性確保のために、(a)非常用換気空調系を用いる方法と(b)非常用換気空調系と冷却系区画圧力緩衝系を用いる方法を比較検討しました。圧力緩衝系の中に入っている水と混合することにより、蒸気の凝縮による減圧が期待できます。は圧力逃がしのルートを示しています。

 

図9-20 熱水力解析で明らかになった真空容器外冷却水喪失事象に対する原型炉システムの過渡応答
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図9-20 熱水力解析で明らかになった真空容器外冷却水喪失事象に対する原型炉システムの過渡応答

冷却系区画に圧力緩衝系を設けることで、放射性物質閉じ込め最終障壁を構成する上方トカマクホールの圧力荷重を大幅に低減できる見通しを得ました。

 


核融合炉は燃料であるトリチウムや核融合中性子による放射化生成物などの放射性物質を内包します。通常運転時のみならず、万が一事故が起こった場合でも、事故の進展を防止し、放射性物質の閉じ込め機能を確保しなければなりません。現在原子力機構では、核融合原型炉の概念設計のための安全設計指針の確立に向け、原型炉の安全性研究を行っています。様々な事故事象を想定し、その事象に対する原型炉システムの応答を解析することで安全上の特徴を分析し、さらに種々の事故進展防止・影響緩和システムの有効性を調べています。

核融合原型炉の安全性にとって重要な想定事故事象の一つに、真空容器外冷却水喪失事象があります。冷却水は核融合炉内機器の冷却と発電のために用いられるものですが、高圧(15.5 MPa)かつ高温(290〜325 ℃)という加圧水型軽水炉(PWR)と同等の条件で運転するので、万が一冷却管が破断すると、周囲の建屋(事故時の放射性物質閉じ込めの最終障壁)に大きな圧力荷重をかけ、ひいては破損を引き起こす恐れがあります。ここでの重要な視点は、核融合原型炉にもPWR格納容器のような耐圧性区画が必要かどうかという点です。

そこで真空容器外冷却水喪失事象に対する原型炉システムの熱水力過渡応答を解析し、事象進展シナリオ,建屋への荷重,圧力荷重を緩和する方策の有効性を調べました。ここでは保守的に極めて起こりにくい冷却管ギロチン破断を想定しました。圧力荷重を緩和する方策として、図9-19(a)非常用換気空調系を用いる方法と図9-19(b)非常用換気空調系だけでなく冷却系区画圧力緩衝系を用いる方法を検討しました。熱水力過渡応答解析の結果(図9-20)から、冷却系区画圧力緩衝系を用いると、上方トカマクホール(最終障壁を構成する区画の一つで、炉内機器の保守交換のための大容積スペース)の圧力荷重が大幅に低減できることが分かりました。このとき、冷却系区画(耐圧性区画)の容積はPWRの格納容器の3分の1程度です。

このように、核融合原型炉でも耐圧性区画は必要ですが、比較的小さな耐圧性区画でも、原型炉の本来機能のための区画(上方トカマクホール)の有効活用と適切な区画分けを組み合わせることで、放射性物質閉じ込めの最終障壁の健全性を担保できる見通しを得ました。この知見は原型炉の安全設計指針、とりわけ最終障壁における放射性物質閉じ込めの考え方を確立する上で重要なものです。