9-8 炉心プラズマの動的制御に向けて

−炉心プラズマの非局所応答のシミュレーション研究−

図9-21 密度分布の時間発展

図9-21 密度分布の時間発展

横軸は規格化プラズマ半径,縦軸は規格化密度分布を示します。密度源はプラズマ半径0.8(×0.3 m)に印加、ある時刻に源を切りその後の密度分布の発展を追跡しました。T = 0.675 ms(━━ 線)のプラズマ半径0.4(×0.3 m)付近に非局所応答が出現しました。

 

図9-22 ポロイダル断面における密度揺動の等高線図

図9-22 ポロイダル断面における密度揺動の等高線図

ポロイダル断面(トーラスの垂直断面)における密度源を切った時刻の密度揺動(左図),非局所応答が現れた時刻の密度揺動(右図)の等高線図を示します。非局所応答が出現したとき、螺旋状の構造がプラズマの中心部と周辺部を接続しています(右図)。

 


トカマク方式の核融合炉では、核燃焼状態を定常維持することが必要です。閉じ込め劣化や破壊的な崩壊現象を回避するため実時間でプラズマの状態を診断し、外部からプラズマの分布制御を行う必要があります。電流駆動による電流分布制御,ペレットによる分布制御等、様々な手法が提案されています。制御で重要となるのはプラズマの応答です。プラズマの分布発展は輸送コードにより解析しますが、衝突過程より速い時間で起こる過程は瞬時に定常状態に達すると仮定しています。動的制御を行うためには、この仮定を緩和する必要があります。

トカマク実験においてプラズマ周辺にペレットを入射したとき、プラズマ周辺部が急速に冷却されるのとほぼ同時にプラズマ中心部の電子温度が上昇する現象が報告されています。衝突時間より速い時間で起こる過程であること,周辺部と中心部の電子温度が直接相互作用しているように見えることが特徴として挙げられます。このような非局所応答を記述するために積分核によりフラックスを定式化する輸送モデルがあります。このモデルは速い時間スケールの輸送過程は説明できますが、周辺部と中心部のプラズマが直接相互作用するということは説明できません。

本研究では簡約化電磁流体モデルペレット入射を模擬するモデルを実装しプラズマの過渡応答を調べました。密度源をプラズマの周辺に印加、しばらくして源を切った後の密度の発展を図9-21に示します。 線で示されている分布が源を切った瞬間に対応します。プラズマ周辺の密度はその後しばらく上昇した後、急激に減少し、源から離れた位置で分布が大きく変化しているのが分かります。このモデルは電磁流体不安定性を特徴づける時間で規格化しており衝突時間に比べ速い時間の過程であることが分かります。プラズマ内部の応答を調べるため、密度揺動の二次元等高線を図9-22に示します。非局所応答は螺旋状の構造により起こっていることが分かります。螺旋状構造が形成されれば、周辺と中心を直接接続することが可能となり、非局所応答を作り出すことが可能となります。これまで説明困難だった非局所応答を二次元の輸送過程として捉えることでその物理機構の理解が深まりました。

以上の知見は、非局所輸送モデルの構築に資するとともにITERや原型炉における動的制御のための物理的基盤構築に貢献する成果といえます。