図9-23 海水中のLiを回収する革新的な元素分離技術
図9-24 核融合炉用Li原料精製までのプロセスを確立
核融合炉燃料のトリチウムは、自然界にほとんど存在しないため、リチウム(Li)を含む微小球に中性子を当てて、人工的に製造する必要があります。よって、発電実証が計画されている2030年代以降は、大量のLiが必要です。また、電気自動車や一部のハイブリッド自動車では、駆動用バッテリーとして、軽量で大容量のLiイオン電池を採用しており、低炭素社会の実現を目指す我が国を含む先進国での市場急拡大が見込まれています。
我が国では、この需要が高まっているLiを南米諸国からの100%輸入に頼っています。しかし、海外では、膨大な敷地で1年以上かけて塩湖の水を自然蒸発させ、Liを回収しているため、今後のLi需要の急増に対応できず、資源不足に陥る懸念が報告されています。
そこで、Liは海水中にほぼ無尽蔵に含まれていることに着目し、海水からのLi回収技術の開発に着手しました。我が国は四方を海で囲まれていることから、Li資源大国ともいえ、実現すれば、我が国の新たな産業の創成にも貢献できます。
本研究では、海水とLiを含まない回収液間は、イオン伝導体をLi分離膜として隔離するだけでなく、その間にLi濃度差を生じさせることにより、海水中のLiが自然に回収液へ選択的に移動する分離原理を発案しました。さらに、Liの移動と同時に発生する電子を電極で捕獲することで、電気を発生しながらLiを回収できる全く新しい技術を世界で初めて確立しました(図9-23)。
実際の海水を用い、3日間(72時間)のLi回収試験を行ったところ、海水に含まれるLiを最大で約7%回収することに成功しました。さらに、Li回収液に安価な炭酸ナトリウム水溶液を混合することで、核融合炉燃料トリチウムを製造するためのLi微小球の原料である炭酸Liを生成する、一連のLi回収プロセスを構築しました(図9-24)。
本技術は、現在行われている塩湖からのLi回収技術と比べ、省スペース,短時間,さらに、電気を新たに生むゼロ・エミッション化が見通せる革新的な技術です。また、使用済Liイオン電池からのLiリサイクル,火力・原子力発電所の冷却水として大量に取水した海水からのLi回収などにも適用可能です。今後、我が国におけるLi循環型社会の実現を目指し、実用化研究を進めます。