図10-8 核融合プラズマにおける電子軌道
図10-9 乱流減衰テストにおけるエネルギー保存特性
核融合炉の炉心性能を左右する燃料粒子やエネルギーの乱流輸送を評価する上で、電子系のプラズマ乱流の長時間スケール数値実験が必須となっていますが、高速運動する電子の計算が困難でした。今回、新たな電子系モデルを開発してこの問題を解決しました。
核融合プラズマは閉じ込め磁場の磁力線に巻き付く荷電粒子の旋回運動(電子:〜140 GHz,イオン:〜 40 MHz),荷電粒子がトーラスを周回する運動(電子:〜 6 MHz,イオン:〜100 kHz),捕捉電子のゆっくりした歳差運動(〜100 kHz),プラズマ乱流(〜100 kHz),荷電粒子間の衝突(〜1 kHz),そして、プラズマの温度分布が変化する時間スケール(〜1 s)という多時間スケールの現象を含みます。プラズマ乱流に比べて高周波の旋回運動を解析的に近似した第一原理モデルの開発と近年のスーパーコンピュータの性能向上によって、イオン系のプラズマ乱流に関しては、プラズマ乱流から温度分布変化の時間スケールまでをカバーする長時間スケールの数値実験が可能になりました。しかしながら、トーラス周回運動の時間スケールが二桁程度短い電子系に関しては、エネルギー保存則が満たされず、長時間スケールの数値実験が依然として困難でした。
そこで、核融合プラズマ中の電子運動の特徴に基づく新たな電子系モデルを開発しました。電子軌道はその速度に応じて磁場が弱いトーラス外側領域に捕捉され、ゆっくりした歳差運動を行う捕捉電子とトーラスを高速に周回する通過電子に大別されます(図10-8)。このうち、解析対象のプラズマ乱流は主に捕捉電子の歳差運動との共鳴により励起するのに対し、通過電子の高速運動は高周波の非物理的な数値的ノイズを発生させます。この高周波ノイズを回避し、低コストかつ高精度な数値実験を実現するために、乱流場の計算では通過電子の応答を低周波揺動に対する解析解で近似しました。一方、荷電粒子間の衝突に関しては通過電子も厳密に取り扱う必要があるため、捕捉電子と通過電子の両方を第一原理モデルで計算しました。このように、物理過程に応じて通過電子のモデルを切り替えるハイブリッド電子系モデルによって、計算コストの削減とエネルギー保存精度の向上を両立し(図10-9)、電子系を含む長時間スケール数値実験を行う見通しが得られました。
本研究は、文部科学省ポスト京重点課題E「革新的クリーンエネルギーの実用化」(核融合炉の炉心設計)で得られた成果です。