図10-1 システム計算科学センターにおける計算科学研究
放射性物質の環境動態、汚染土壌の減容、過酷事故の解析等、東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に発生した課題の解決や将来の原子力システムの研究開発には、様々な要因が絡み合う複雑な現象の解析技術が不可欠です。例えば、過酷事故の解析では核燃料や構造材の溶融・移行過程を評価するマクロスケールの熱流動解析だけでなく、溶融物の混合による複雑な界面形成や亀裂進展等の破壊現象を評価するメゾスケールの解析、高温高圧の極限環境下における元素拡散、化学反応、相変化による物性変化を評価するミクロスケールの量子計算を統合した多スケール・多物理の解析技術が必要です。このような新しいシミュレーション技術に加え、複雑現象解析に必須となる高性能計算機の高度利用を可能とする計算機技術も必要となります。
システム計算科学センターでは、これまで複雑現象解析の基礎となる構造解析、量子計算、流体計算等のシミュレーション技術及び数値計算アルゴリズム、可視化等の計算機技術を開発してきました。現在、これらの技術を発展させ、さらに観測や実験の結果を積極的に取り込み、複雑現象解析という新たな課題に取り組んでいます(図10-1)。このような複雑現象の解析技術は原子力研究開発全般における共通基盤技術となります。
2015年度は、福島の再生・復興への計算科学技術の活用として、土壌中の放射性セシウムによる空間線量率の評価手法を確立し、異なる土壌除染方法による空間線量率の違いを評価しました(第1章トピックス1-10)。一方、複雑現象解析に必要な様々な解析技術の高度化に関する成果として、以下の成果を紹介します。
(1)三次元仮想振動台技術を用いた東日本大震災時の高温工学試験研究炉(HTTR)の耐震解析と観測データを比較した実証研究に関する成果(トピックス10-1)。
(2)第一原理計算による二酸化プルトニウムの比熱評価と高温状態における比熱を決める物理機構の解明に関する成果(トピックス10-2)。
(3)マグネシウム,ジルコニウム等の六方晶金属における転位の第一原理計算による、金属の延性を決める転位移動機構の解明に関する成果(トピックス10-3)。
(4)核融合プラズマの第一原理乱流計算に関して、電子系を含む多時間スケールの数値実験を可能とする電子モデルの開発(トピックス10-4)。
システム計算科学センターでは、原子力研究開発の共通基盤となる計算科学技術の研究を今後も着実に進展させ、その成果を積極的に展開していきます。