10-1 原子力施設の耐震シミュレーション技術の高度化に向けて

−三次元仮想振動台を用いた原子力施設建屋の揺れの再現−

図10-2 HTTR建屋の地震観測記録,質点系モデル,三次元詳細モデルの結果比較(加速度応答スペクトル,東西方向,2階)

図10-2 HTTR建屋の地震観測記録,質点系モデル,三次元詳細モデルの結果比較(加速度応答スペクトル,東西方向,2階)

質点系モデルは周期0.1 秒近傍の地震観測記録の応答を捉えきれていませんが、三次元詳細モデルは、ピーク値がわずかに長周期側にずれているものの、地震観測記録の応答の山を捉えています。

 

図10-3 HTTR建屋の三次元詳細モデルの振動モードの例

図10-3 HTTR建屋の三次元詳細モデルの振動モードの例

三次元詳細モデルの振動特性分析において、周期0.1 秒近傍における水平方向と上下方向の変形が連成する振動モードを確認しました(屋根部参照)。地震観測記録の分析結果からも同様の振動モードの存在を確認しています。

 


システム計算科学センターでは、原子力施設のような大規模かつ複雑な構造物の三次元詳細モデルによる耐震シミュレーションのためのフレームワーク(三次元仮想振動台)を構築しました。この三次元仮想振動台の実問題への適用性を検証するため、東日本大震災において大洗研究開発センターの高温工学試験研究炉(HTTR)建屋で観測された加速度記録(地震観測記録)に対して、従来の設計用解析モデルである質点系モデルと三次元仮想振動台の解析結果を比較しました(図10-2)。

まず、質点系モデルを用いた解析結果と地震観測記録の加速度応答を比較したところ、周期0.1 秒付近の短周期帯において解析結果と地震観測記録に差異が確認されました。この原因を探るため、地震観測記録に基づき周期0.1 秒近傍の振動を分析したところ、質点系モデルでは表現できない水平方向と上下方向の変形が連成する振動モードが発生していることを確認しました。次に、この振動モードを再現するためにHTTR建屋の三次元詳細モデルを作成し、三次元仮想振動台を用いて同様の地震応答解析を実施しました。その結果、加速度応答スペクトルとの良い一致と水平方向と上下方向の変形が連成する振動モードの存在を確認しました(図10-3)。

今回用いた質点系モデルと三次元詳細モデルにおいて、地震応答に影響を及ぼす主要な振動モード(約0.2〜0.4 秒)はほぼ一致しています。確認された連成する振動モードは周期0.1 秒近傍という比較的短周期であったことから、加速度応答への寄与は小さく、耐震評価に用いられる最大加速度に与える影響はそれほど大きくありませんでした。しかしながら、図10-3でも分かるように、当該振動モードは特に建屋上部の壁や屋根の局部応答に影響を及ぼすため、これらの箇所の応力評価においては考慮すべき振動モードといえます。

東日本大震災以降、原子力施設の耐震評価においては、想定を超える多様な地震動に対する裕度評価が求められています。そのためには、より合理的な応答評価が不可欠です。質点系モデルは十分な裕度を有するモデルですが、確度の高い応答評価のためには、実現象を再現できるモデルの構築が重要です。本研究では、今後も様々な地震観測記録の分析を継続して行うとともに、原子力施設の耐震評価手法の高度化に向けた研究開発に取り組む予定です。