図3-2 URhGeの温度−磁場相図とNMR実験に用いた単結晶
図3-3 磁場で誘起される超伝導の仕組み(イメージ図)
物質内の電気抵抗が突然ゼロとなる超伝導現象は、もともと磁場とは相性が悪く、どんな超伝導体でも磁場をかけていくと、最後には超伝導が壊されてしまいます。このことが高い磁場を作る超伝導磁石開発の障害となります。超伝導が壊される磁場は一般に(上部)臨界磁場と呼ばれ、いかに高い臨界磁場を持つ超伝導体を開発するかが応用上の重要なテーマとなってきました。ところが最近、ウラン化合物URhGeにおいて、磁場(約2 T)で一度壊された超伝導状態がさらに強い磁場(10〜14 T)をかけることで再び出現するという、驚くべき現象が報告されました(図3-2(a))。これは磁場が超伝導にとって常にマイナスに働くだけではなく、時にはプラスにも働き得ることを意味しています。その仕組みが理解できれば、磁場に強い新しい超伝導の開発につながるはずです。そこで私たちは、物質内部の電子状態を高精度で観測できる核磁気共鳴(NMR)法という測定手法を用いてその解明に取り組みました。
本研究のため、わずかな量のCoをRhに置換した特別なURhGeの単結晶(図3-2(b))を準備し、さらにフランス国立強磁場研究所の強力な磁石(最大磁場34 T)を用いることで、Co核のNMR実験に成功しました。その結果、超伝導が復活する10〜14 Tの磁場領域において、物質内部の磁化の揺らぎが急激に増大していることが分かりました。これによりURhGeの超伝導が磁化の揺らぎによって引き起こされ、強い磁場がこの揺らぎを増大させることで超伝導が強化され、再び出現していることが明らかになりました(図3-3)。
URhGeの超伝導は転移温度が1 K(−272 ℃)以下と非常に低く、残念ながらすぐには応用できません。しかし今回見つかった仕組みをうまく利用することで、将来より高い臨界磁場を持つ超伝導線材や、磁場で制御する新たな超伝導デバイスの開発が期待されます。さらに注目されるのは、この磁化の揺らぎに起因する磁場誘起超伝導がウラン化合物において初めて発見されたことです。同様の特異な超伝導は今のところウラン元素を含む物質でしか見つかっていません。その理由はまだはっきりとは分かっていませんが、私たちはウラン元素の持つ 5f電子がその鍵を握っていると考えています。磁性と超伝導が複雑に絡み合うウラン化合物の研究は、物質の未知なる性質を探る研究の最前線でもあるのです。
本研究は、東北大学との共同研究「アクチノイド化合物の育成と物性研究」の成果であり、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(No.26400375)「遍歴強磁性超伝導体における磁場誘起超伝導メカニズムの微視的解明」の助成を受けたものです。