4-9 原子炉中の高温高圧の蒸気と水の割合を可視化する

−ワイヤーメッシュセンサーによる燃料集合体内蒸気体積割合計測技術の開発−

図4-19 燃料集合体内蒸気体積割合計測装置の概要と計測原理
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図4-19 燃料集合体内蒸気体積割合計測装置の概要と計測原理

WMSでは、ワイヤーの間に電圧をかけて電流を測定します。ワイヤーの間に蒸気があると電気が流れにくくなり電流が小さくなります。例えば、(a)で赤色と緑色の間の電流は小さく、緑色と青色の間の電流は大きくなります。高温高圧の燃料の中の計測を行うため、高温に耐える絶縁材に穴を開けるなど工夫し、試験装置を製作しました。

 

図4-20 計測した蒸気体積割合分布の時間変化

図4-20 計測した蒸気体積割合分布の時間変化

圧力2.6 MPa, 温度226 ℃, 水の流速0.58 m/s, 蒸気の流速1.74 m/sで計測した結果です。(e)では中心部で蒸気の割合が大きく、(f)では全体的に割合が小さくなるなど、短い時間で蒸気体積割合分布が大きく変化することが分かります。

 


原子炉内では、冷却材である水の沸騰により、水(液相)と蒸気(気相)が混ざった流れである気液二相流(以下、二相流)ができます。原子炉内の温度は、二相流の状況、特に蒸気の体積割合に影響を受けます。このため、原子炉の設計や事故時の状況を検討する上で、蒸気体積割合を評価することが重要となります。しかし、燃料棒の存在により冷却材が流れる部分(流路)が狭い原子炉炉心内の蒸気体積割合を高温高圧で計測することは難しく、これまでは低温あるいは低圧の条件での実験結果を基にした評価が行われていました。そこで私たちは、原子炉炉心内の蒸気体積割合を評価することを目的に、高温高圧条件での蒸気体積割合計測が可能なワイヤーメッシュセンサー(WMS)という計測方法を基に、原子炉炉心を模擬した試験装置の中の蒸気体積割合を計測する方法を開発しました。

図4-19(a)に開発したWMSの構造と計測の原理を示します。電気を通す金属は、電流を使ったWMSの計測に悪影響を与えます。そこで、燃料棒を模擬した金属管の中間に、図4-19(a)のように、穴を開けた高温に耐え電気を通さない絶縁材を設置し、その中にワイヤーを通す構造としました。図4-19(b)に製作した試験装置の外観を示します。内部には原子炉炉心を模擬するため、長さ約4 mの模擬燃料棒を、縦横4本ずつ、計16本設置しました(図4-19(c))。実験結果の一例として、計測した蒸気体積割合の時間変化を図4-20に示します。蒸気が多い部分(赤い部分)と、水が多い部分(青い部分)が、短い時間で複雑に変化している様子が計測されています。今後は、さらに多くのデータを計測するとともに、得られたデータを使って、解析コードの検証や、二相流を評価するための実験式などの評価,改良を行い、原子炉内の高温高圧条件における沸騰状況や温度分布の評価に役立てます。