図5-27 J-KAREN-Pでエネルギー増幅に用いるTi:Sap結晶
図5-28 最終段Ti:Sap増幅器でのエネルギー出力特性
強力なレーザー光を小さな領域に集中(集光)すると、非常に高い電場(高強度場)が生成されます。この高強度場にて原子と電場が相互作用することにより、高エネルギーの粒子線(電子,イオンなど)やX線が発生します。私たちは、より高いエネルギーの粒子線発生を目指し、1022 W/cm2という未踏の高強度場を実現する、世界トップクラスの超高強度極短パルスレーザー(J-KAREN-P)の開発を行っています。J-KAREN-Pでは、30 Jのエネルギーを30 フェムト秒(fs=10-15 s)という極短時間内に集中することで、1015 W(1 PW: ペタワット)に達する超高強度レーザー光パルスを、10秒に1度の繰り返し動作(0.1 Hz)で発生することを目標にしています。
レーザー光のエネルギー増幅には、微量のチタンを混入したサファイア結晶(Ti:Sap結晶)を用います。Ti:Sap結晶に緑色の励起用レーザー光を照射すると、そのエネルギーがTi:Sap結晶中に蓄積されます(図5-27)。この領域をレーザー光が通過する際、誘導放出によるエネルギー増幅が起こります。J-KAREN-Pでは段階的にビームサイズを大きくしてエネルギー増幅を行います。
これまでは、最終段のTi:Sap結晶用の励起レーザーとして、大口径のロッド型ガラスレーザーを用いていたため、ここでの熱除去に必要な時間が制限となり、30分に1度しかレーザー光を発生することができませんでした。今回、励起レーザーを6台に分割し小口径化することで、熱除去に要する時間を10秒にまで大幅に短縮することに成功しました。
さらに、大型Ti:Sap結晶で生じる寄生発振による蓄積エネルギーの損失を、結晶の周囲に光吸収材(ヨウ化メチレン)膜を施すことで抑制しました。その結果、繰り返し率0.1 Hzにて、励起エネルギーに対して理論通りの出力エネルギー特性を得ることに成功しました(図5-28)。エネルギー増幅後に行う、パルス幅を30 fsに圧縮する操作にかかわる効率は約70%であることから、今回達成した出力エネルギー55.7 J(励起エネルギー77.5 J)により、設定目標である0.1 Hz動作での出力エネルギー30 J並びにパルス強度1 PWの実現に見通しが立ちました。
本研究で開発している世界トップクラスのレーザーを用いることで、今後、未踏分野の超高強度下で初めて発現する現象の研究が飛躍的に進展し、小型粒子加速器や粒子線がん治療器などの広い分野への応用が期待されます。