図5-20 代表的な熱電変換法
図5-21 放射光X線回折スペクトルと試料の分極
現代の社会においては、全エネルギー消費のうち有効活用されているのは1/4に過ぎず、残りの3/4は排熱等の形で放出され、未使用のまま廃棄されてしまっています。この廃棄エネルギーを再利用可能な電気エネルギーに変換する技術の開発は、限りあるエネルギー資源を効率良く活用する省エネルギー社会の実現のためには不可欠です。熱を電気に変換するためには、空間的な温度勾配を利用し、半導体などのゼーベック効果を用いて行う方法が広く研究され、応用もされています(図5-20(a))。しかしこの方法では、性質の似たP型とN型2種類の素子が必要ですし、効率を上げるためには低熱伝導率かつ高電気伝導率というある意味で矛盾する性質が求められています。一方、排熱は時間変化することも多く、その時間変化を強誘電体(焦電体)の焦電効果を用いて電気エネルギーに変換する方法もあります(図5-20(b))。この方法は1種類の材料のみで構成できますが、そのままでは効率は低く留まります。しかし温度変化にうまく同期した外部電場をかけると、入力した電気エネルギーに比べて飛躍的に大きな電力を取り出すことができます。
本研究では特に自動車の排ガスを対象として、排熱の温度変化を利用した発電機構の研究を進めています。実験室内の模擬環境下で、強誘電体の温度変化に同期した外部電場をかけるとともに、回路に工夫を凝らすことで取り出す電力をさらに上昇させることができました。加えて自動車のエンジンから排出される排ガスを用い、現実に利用可能な電力の取出しも確認できました。また、その発電中の強誘電体に放射光X線を当てて回折実験を行うことで、強誘電体内部の分極状態の変化を調べることにも成功しました(図5-21(c))。実験は、大型放射光施設SPring-8のBL14B1で行いました。X線回折の結果と、同時測定した電気測定の結果を比較することで、外部電場による再利用エネルギーの増大には、正方晶の強誘電体内部の分極方向を、90度ではなく180度変える変化が重要であることも分かってきました(図5-21(d))。この結果は、材料開発にフィードバックされてより高効率な素子の実現につながるとともに、将来的には工場など様々な場所の排熱利用に応用されていくことが期待されています。
本研究は、ダイハツ工業株式会社,長岡技術科学大学との共同研究で進められた成果の一部です。