7-2 放射性廃棄物をより低減する高速炉の設計

−安全性と核変換の調和を目指した炉心開発−

図7-4 低Naボイド反応度型MA核変換炉心

図7-4 低Naボイド反応度型MA核変換炉心

炉心の安全性に関係するNaボイド反応度を低減するため、@〜Cの設計方策を導入しました。温度上昇によるNaの密度減少に伴い、炉心上部方向への中性子漏えいが増加、原子炉を停止させる方向に作用します。

 

図7-5 大量のMA核変換の達成

図7-5 大量のMA核変換の達成

本研究で考案した「実効的Naボイド反応度」を負とする条件のもと、MA含有率を11%まで高め、従来高速炉の2倍のMA核変換量を達成可能な見通しを得ました。¢(セント)は反応度の単位であり、+100 ¢以上で急激な出力上昇に至ります。

 


原子力発電所から出る使用済燃料の再処理で発生する高レベル放射性廃棄物には長期の放射能や発熱を有するネプツニウム,アメリシウム,キュリウム等の元素からなるマイナーアクチニド(Minor Actinide: MA)が含まれます。高レベル放射性廃棄物からMAを分離回収して原子炉で核変換することによって、長期にわたる潜在的な有害度の低減や処分場占有面積の抑制が期待されています。

高速炉はその優れた核的性質により、MAを燃料としてリサイクルし、発電しながら燃焼することが可能です。福井大学を中心に実施した公募研究の一環として、日立GEニュークリア・エナジーと協力して炉心安全性と核変換性能を調和させた電気出力75万kWeのナトリウム(Na)冷却高速炉用のMA核変換炉心を検討しました。

MA核変換量を高めるには炉心燃料中のMA含有率を増加する必要がありますが、MA含有率は炉心安全性にかかわるNaボイド反応度とトレードオフの関係にあり、いかにしてNaボイド反応度を低減するかが課題でした。Naボイド反応度は温度上昇による冷却材Naの密度減少に伴う反応度ですが、従来高速炉では正の値となり炉心の核反応を増加させる働きがありました。

本研究では、仮想的な事故時の炉心高さ方向のNa密度分布を考慮した実効的Naボイド反応度(Effective Sodium Void Reactivity: ESVR)を設計指標として考案し、事象が緩慢に進展するようESVRを負とすることを条件としました。炉心設計においては図7-4に示すように@軸非均質炉心の採用(内部ブランケットの設置),A上部Naプレナムの設置,B内側・外側炉心間の段差設置,C上部端栓・上部ガスプレナム部の短尺化を行い、Na密度減少時の炉心上部への中性子漏えいの促進によって、ESVRを大幅に低減し負側に余裕を持った値とすることができました(図7-5赤色プロット参照)。この負側の余裕をMA含有率の最大化に振り向け、炉心燃料の重金属あたりのMA含有率を従来高速炉の5%に対し11%まで高め、MAの核変換量を従来高速炉の2倍とする大幅な性能改善の見通しを得ました(図7-5青色プロット参照)。

核燃料を増殖しながら軽水炉から高速炉に置き換えるシナリオでは、MA含有率が5%を越えるような状況はほとんど発生しないため、従来高速炉でも核変換性能は十分です。本研究のMA核変換炉心によって、少数基の高速炉導入によるMAの集中的な燃焼や、従来高速炉との組み合わせで多数基を導入する場合にはMAの取扱いを燃料サイクルの一部に局在化できるようになり、高速炉によるMA管理の柔軟性を大きく高めることができました。

本研究は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会計)に基づく文部科学省からの受託事業として、福井大学が実施した平成26年度「「もんじゅ」データを活用したマイナーアクチニド核変換の研究」の成果を含みます。