7-3 高速炉の安全性向上を目指して

−燃料集合体が溶けて流出する挙動を実験的に確認−

図7-6 内部ダクト付き燃料集合体における溶融燃料の上向き流出試験
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図7-6 内部ダクト付き燃料集合体における溶融燃料の上向き流出試験

カザフスタン共和国国立原子力センターとの共同研究により、同研究所が所有する実験用原子炉(IGR)を用いて実際に燃料集合体を核加熱で溶融させて3000 ℃程度に達する事故状態を模擬し、内部ダクトを通じて溶融燃料が上向きに流出するデータの取得に成功しました。

 


ナトリウム冷却型高速炉(高速炉)の安全性を確保するには、燃料が損傷して炉心が崩れる事故(炉心崩壊事故)が発生しても、原子炉容器の破損を防止することが不可欠です。炉心崩壊事故での原子炉容器の破損は、燃料が大量に溶けて炉心内部に留まり、これが急速に集まる動き方をして出力が急上昇した場合に生じます。従来の高速炉では、このような状況になっても原子炉容器の健全性が確保される設計がなされてきましたが、次世代高速炉においては、安全性をさらに向上させるため、炉心崩壊事故時の急激な出力上昇が発生する原因そのものを取り除くことを目指しています。具体的には、燃料が溶けたら直ちに炉心の外に流出するよう、専用のダクトを燃料集合体の中に設置します(内部ダクト付き燃料集合体)。現在、流出した燃料を冷却する観点から、燃料溶融時に炉心の圧力が高まる性質に着目し、上端に向かって開口を有する内部ダクトを設置することで、溶融燃料を上部プレナム方向へ流出させる概念を検討しています。

本研究では、溶けた燃料が上方向に流出することを確認するため、実際に燃料集合体を溶かす実験を行いました。図7-6(a)に試験体を示します。内部ダクト付き燃料集合体を部分的に模擬した試験体を製作し、これを図7-6(b)に示すカザフスタン共和国国立原子力センターが有する実験用原子炉(IGR)の中央試験孔に設置します。IGRを起動して設置した試験体を中性子照射することにより試験燃料を図7-6(c)に示すように発熱させ、試験体内に炉心溶融状態を作り出しました。図7-6(d)に主要な測定結果を燃料比内部エネルギー評価値と比較して示します。燃料比内部エネルギー値から、@21.7秒頃に燃料集合体が完全に溶融し、A21.8秒頃に溶融燃料からの伝熱によって内部ダクトの温度が上昇を始めています。B22.3秒頃の不連続な温度変化は、内部ダクトが溶解して燃料の流出が始まったことを示しています。さらに、C22.6秒頃に上部プレナムを模擬した容器底面の温度が急速に変化しており、上部に流出した燃料が堆積し始めたことが示されています。この堆積物の重量測定を行い、炉心部の溶融燃料のほとんどが上部に流出したことを確認しました。

本研究を通じて、燃料集合体内部にダクトを設置することが炉心崩壊事故時に溶けた燃料を速やかに炉心の外へ流出させることに有効で、流出方向として上向きも可能であることを確認できました。