7-4 ナトリウム冷却高速炉の蒸気発生器伝熱管の損耗現象を解明する

−高温水酸化ナトリウムによる流れを伴う腐食挙動の評価−

図7-7 実験装置及び実験状況

図7-7 実験装置及び実験状況

Na−水反応時に生成される高温のNaOHが流れるときに、どの程度腐食速度が促進されるのかを把握するため、ウェステージ現象に対する影響因子の分離効果を確認できる、新たな実験装置や実験手法を開発しました。

 

図7-8 高温NaOH環境での腐食速度

図7-8 高温NaOH環境での腐食速度

流れを伴った高温のNaOH環境では、NaOHの流速や温度が増えるにつれて、腐食速度が緩やかに増加する傾向を確認できました。

 


高速炉の蒸気発生器(SG)では、伝熱管を介してナトリウム(Na)と水/蒸気との熱交換が行われます。ある伝熱管に貫通破損が発生すると、管内を流れる高圧の水/蒸気がNa中にジェット状に漏えいし、ナトリウムと反応(Na−水反応)することで、高温で腐食性の高い環境(反応ジェット)が形成されます。この反応ジェットは隣接する健全な伝熱管を局所的に損耗(ウェステージ)するため、破損の規模が拡大していくことが懸念されます。

これまで、ウェステージによる損耗速度(ウェステージ率)は、対象とするSGの構造や運転条件を模擬したNa−水反応実験知見に基づき評価されてきましたが、この評価アプローチで異なる型式のSGを設計する際には、様々な設計選択肢に対して汎用性に欠けることから、最適な設計には不向きです。

合理的で社会的受容性を考慮したSGの設計を行うため、機構論に基づいたNa−水反応現象に関する解析評価システムを構築しています。

その中で、ウェステージについては、反応ジェットに随伴される周囲流体の液滴によるエロージョン(磨耗または侵食)と、Na−水反応で主に生成される水酸化ナトリウム(NaOH)や酸化ナトリウム(Na2O)による流れを伴うコロージョン(腐食)が相互に作用して進行する現象と考えました。

そこで、腐食作用に対する影響因子の分離効果を把握するために、図7-7に示すような実験装置を開発しました。本装置は、試薬のNaOHやNa2Oを封入する試験カプセル,試験カプセルを加熱する赤外線加熱炉,伝熱管材料の供試体,供試体を加熱する赤外線集光加熱炉及びデータ収録装置等で構成されています。赤外線加熱炉と試験カプセルの間には石英ガラスを組み入れて、実験する系統内をアルゴンガス雰囲気に保てるようにしました。試薬や供試体の温度(最大1000 ℃),試薬の噴出速度(最大100 m/s)及び試薬の混合割合を変化させて、図7-7右下の写真に示すように、液体のNaOHをコラム状に噴射して供試体の一点へ衝突させ、実験後に供試体の減肉量を光学的に計測して腐食速度を評価しました。

図7-8は、NaOH環境で得られた供試体の最大腐食速度を、NaOHの噴出速度に対してプロットしたものです。試薬/供試体の温度(実験では同一温度に設定)及び試薬の衝突速度が上昇するにつれて、最大腐食速度が増加する傾向を確認できました。また、約30 m/s以上の速度域では、最大腐食速度に対して試薬の衝突速度が強く影響を及ぼさないことが分かります。これは、供試体表面に形成される酸化物の反応物である鉄やクロムの供試体中での物質移行が、供試体の外側を流れる試薬に伴う物質移行に比べて非常に小さく、腐食速度が抑制されたものと推察されます。

これらの知見は、機構論に基づくNa−水反応解析評価手法でのウェステージモデルの構築に活用する予定です。

本研究開発は、文部科学省からの受託事業「蒸気発生器伝熱管破損伝播に係るマルチフィジックス評価システムの開発」の成果を含みます。