図7-9 酸素ポテンシャルの変化と重量の変化
図7-10 酸素ポテンシャルとO/M比の関係
原子力発電所から出る使用済み核燃料の中には、アメリシウム(Am)やネプツニウム(Np)等のマイナーアクチノイド(MA)と呼ばれる元素が含まれています。このMAは放射能強度が高く、半減期が長いことから、高速炉等を利用して短寿命または非放射性の核種へ変換処理することが考えられており、その一環としてMAを多く含む酸化物燃料の開発が進められています。新型の酸化物燃料の開発には、様々な基礎熱物性データが必要ですが、MAの一つであるAmは、基礎熱物性の中でも酸素ポテンシャルに影響を与えます。酸素ポテンシャルとは、酸化・還元の指標であり、酸素ポテンシャルの変化に伴い、酸化物燃料中の酸素(O)と金属(Pu及びAm)の原子数比(O/M比)が変化し、このO/M比の変化が燃料製造や照射挙動に大きな影響を与えることが知られています。
そこで私たちは、Amを含有したPu酸化物(Am含有PuO2)を作製し、熱天秤を用いることで、酸素ポテンシャルとO/M比の関係を評価し、Amの影響を評価することに成功しました。試料中の酸素は、酸素ポテンシャルが変化することで、試料中から雰囲気中へ抜け出る若しくは試料中に雰囲気中から入り込むため、試料の重量がわずかに変化します(図7-9)。この重量変化を、熱天秤を用いて様々な酸素ポテンシャルの雰囲気で測定することで、酸素ポテンシャルとO/M比の関係を求めることができます。
各温度で得た酸素ポテンシャルとO/M比の関係を図7-10に示します。また、Amの影響を評価するため、過去に測定されたPuO2の酸素ポテンシャルとO/M比の関係も示します。この結果から、温度の上昇に従い酸素ポテンシャルが増加することが分かりました。また、同じ温度の結果を比較すると、Am含有PuO2の酸素ポテンシャルは、PuO2に比べ全体的に増加しますが、特にO/M比が2.00に近い領域で著しく増加していることが分かり、Amが大きな影響を与えることが確認できました。Amの酸化物であるAmO2はPuO2よりも非常に酸素ポテンシャルが高いことが知られています。そのため、AmがPuよりも先に還元されることにより、PuO2に比べAm含有PuO2はO/M比が2.00に近い領域で酸素ポテンシャルが増加したと考えられます。
今後は、Amを含有したMOX燃料を用いて酸素ポテンシャルとO/M比の関係を求め、Amが酸素ポテンシャルに与える詳細なメカニズムを明らかにしたいと考えています。