7-6 地下の高温地質環境で動いた破砕帯の活動年代の推定

−フィッション・トラック年代測定法を用いた熱史推定による試み−

図7-11 敦賀地域の花崗岩の熱史

図7-11 敦賀地域の花崗岩の熱史

放射年代はある温度以上では、ゼロリセットされます。いわば、ストップウォッチの計測時間がゼロになります。リセットされる温度は手法と鉱物の組み合わせに固有なので、様々な手法・鉱物で年代を測定すると、試料がいつどのような温度環境にあったかが分かります。

 

図7-12 「もんじゅ」敷地内破砕帯周辺のFT年代

図7-12 「もんじゅ」敷地内破砕帯周辺のFT年代

「もんじゅ」敷地内の破砕帯調査現場の平面スケッチです。この地域の花崗岩は本来約5000万年前のFT年代を示しますが、破砕帯周辺ではより若い年代も見られました。これは、1900万年前に玄武岩を作ったマグマの熱で説明できます。

 


高速増殖原型炉「もんじゅ」では、原子力規制委員会からの指示を受け、敷地内破砕帯の活動性の把握のため、活動時期について調査を進め、報告してきました。ここでは調査の成果の一部をご紹介します。

一般に、破砕帯の最終活動時期を調べるには、破砕帯の上を覆う新しい地層がその下にある破砕帯のずれ動きにより変形しているかどうかを見ます(上載地層法)。新しい地層が、12万〜13万年前以降に変形していれば活断層です。しかし、川の形成や風雨等による地層の堆積・侵食の結果、地表に岩盤が露出している地点では、上載地層法は使えません。「もんじゅ」敷地内では、建設時に新しい地層を剥ぎ取って岩盤まで削り込んでいるため、12万〜13万年前以降の活動の有無を上載地層法で確認することは不可能でした。一方、破砕帯を詳しく見ると、花崗岩中の黒雲母という鉱物が、約200 ℃以上の高温地質環境で変形したことを示す構造が見られました。

そこで私たちは、フィッション・トラック年代測定法(FT法)を用いて、破砕帯の活動年代の推定を試みました。破砕帯が地下の高温地質環境で動いた時期を知ろうとしたのです。FT法は、岩石に含まれる鉱物中のウラン238の自発核分裂でできる線状損傷(Fission Track: FT)を利用した放射年代測定法です。このFTには、加熱により短縮・消滅し、見かけ上の年代が若返るという性質があります。加熱温度・加熱時間とFTの短縮・消滅の関係は加熱実験や天然試料の測定から解明されています。よって、FT年代の若返りやFT長の短縮から、岩石が経験した温度とその時期が推定できます。

図7-11は、FT法やその他の放射年代測定法による、敦賀地域の花崗岩の熱史(温度の時間変化)です。この地域の花崗岩が地下でマグマから冷え固まったのは5000万〜6800万年前と判明しました。図7-12は「もんじゅ」敷地内の破砕帯周辺のFT年代の分布です。敷地内には1900万年前にマグマが急冷してできた玄武岩が脈状に分布しており、破砕帯の周辺もその際に局所的な加熱を受けていることが分かりました。破砕帯が活動した時期は、約200 ℃以上の高温地質環境なので、5000万〜6800万年前または1900万年前の可能性が高いと推定されます。つまり、この破砕帯は活断層ではないと考えられます。

より詳細かつ信頼性の高い活動時期の推定のため、今後も様々な手法・観点から、検討を重ねていく予定です。