8-2 アスファルト固化体中の硝酸塩を取り除く

−処分における硝酸塩影響の低減にかかわる技術開発−

図 8-6 固化体中のイオンの拡散及び変形の概略図

図 8-6 固化体中のイオンの拡散及び変形の概略図

(Ci, i = 0,1,2: 塩濃度,C0 > C2 > C1 > 0; Xi , i = 0,1,2: 固化体の中心から水と接触する境界までの距離,X2 > X1 > X0

 

図 8-7 硝酸イオンの浸漬挙動

図 8-7 硝酸イオンの浸漬挙動

微粉砕した固化体から硝酸イオンを約100%(点線)取り除くことに成功しました。

 


東海再処理施設の操業によって発生した低レベル放射性廃液は、1982年から1997年の間にアスファルトを用いてドラム缶内に固化されました。このアスファルト固化体(以下、固化体)の一部は硝酸塩含有TRU廃棄物に分類され、地層処分相当の低レベル放射性廃棄物として高レベル放射性廃棄物の近傍に埋設(併置処分)することが考えられています。処分後に固化体が地下水と接触すると、固化体から浸出する硝酸イオンによって還元的な処分環境が酸化的に変化し、固化体自身を封入する角型容器や併置処分時の高レベル放射性廃棄物のオーバーパックの腐食の原因となる可能性があることが懸念されています。そのため、固化体を埋設する前に、固化体からどのように硝酸イオンが浸出するのか予測し、さらに処分環境に影響を与えないための処理技術を準備しておくことが重要です。私たちは、固化体中の硝酸イオン等の浸出挙動を調べるとともに、固化体中の硝酸塩を取り除く技術を開発しました。

固化体は水と接触すると、水が固化体中の水溶性塩を溶かしつつ内部に浸透していき、それに伴い硝酸イオン,亜硝酸イオン及びナトリウムイオンがほぼ同様な速度で浸出すること、そして水を取り込み続けることによって膨張し、細孔を有するようになることが分かりました。このことから、硝酸イオンは細孔を形成しつつ膨潤するアスファルト中を拡散しながら浸出しますが、膨張によって細孔領域の経路が長くなるため、硝酸イオンの浸出が遅延することが予測されます(図8-6)。また、膨潤する間隙がない処分環境下では、固化体内部からの膨潤が水接触面近傍の細孔を圧縮し、細孔の圧縮影響による遅延も予測されます。

本研究を応用し、硝酸塩含有固化体を合成し、微粉砕化した固化体(1〜2 mmサイズ)を水に浸すことによって硝酸塩を取り除く技術(水浸漬法)を開発しました。その結果、24時間で硝酸イオンを約100%(310 mg/g)取り除くことができました(図8-7)。本技術により、45wt%の塩を含む固化体から硝酸塩を含まない固化体(ただし5wt%の難溶性塩は含む)へと転換できます。硝酸塩を取り除いた固化体に圧縮処理を適用することによって、硝酸塩が占有する体積分16〜20vol%を減容することができます。取り除いた硝酸塩溶液は、触媒によって分解した後にセメント固化体として処分することが考えられます。

以上の結果から、処分環境への硝酸塩影響を低減することができると期待されます。