図8-13 瑞浪超深地層研究所の地質分布とミューオンの計測点の関係
図8-14 ミューオン測定装置
表8-1 ミューオンの計測結果
ミューオンは宇宙から降り注ぐ素粒子の一種で、物質を透過する能力が強いものの、密度の高いところや透過する距離が長くなるほど、少数の粒子しか通り抜けることができません。このような性質を利用して、「レントゲン写真」を撮影するように、火山や東京電力福島第一原子力発電所の内部構造の推定に用いられてきました。
高レベル放射性廃棄物の地層処分では、処分場周辺に分布する断層などの地質構造の分布を把握する必要があります。瑞浪超深地層研究所の地下部分には、マグマが冷えて固まった花崗岩,花崗岩を貫く断層,これらの上に分布する海や川に砂や泥が堆積した堆積岩という、密度の異なる3種類の岩石が分布します(図8-13)。そこで、私たちはミューオンを計測して、これらの岩石の密度を推定できるかどうかを検討しました。
ミューオンの計測は、断層の分布を考慮して、図8-13に示す3箇所で行い、図8-14に示した測定装置を使用しました。この装置には二つの検出部(シンチレータ)があり、上方から飛来するミューオンを対象とするため、二つの検出部を同時に通過したミューオンのみを計測しました(表8-1)。次に、ミューオンの通過距離(岩石の厚み)と計測数を使い、先行研究に示された換算式を用いて面密度を計算しました(表8-1)。
面密度は単位面積あたりの重量なので、岩石ごとに厚みと密度を掛け算し、足し合わせたものになります(例えば計測点Aの面密度は、堆積岩の重量(厚み×密度)と断層の重量(厚み(通過距離)×密度)を足し合わせたものになります)。各計測点の上方に分布する岩石の厚みは分かりますので(図8-13)、各計測点で求められた面密度から、3種類の岩石の密度を計算することができます。このようにして、花崗岩,断層,堆積岩の密度は、各々3.38,2.88,1.99 g/cm3と求められました。
この値は瑞浪超深地層研究所でのこれまでの調査で測定された密度よりも明らかに大きいものです。これまでの調査結果に基づいて、花崗岩の密度を2.6 g/cm3とすると、面密度から求めた密度は約30%大きくなっています。そこで、面密度から求めた堆積岩と断層の密度を、花崗岩の密度の比較に基づいて比例計算した結果、断層と堆積岩の密度は各々2.2 g/cm3,1.5 g/cm3と求められ、これまでの調査結果に一致する結果となりました。
ミューオンの計測結果から推定した密度がこれまでの結果と違う理由については課題がありますが、3種類の岩石の密度の比はほぼ正確に求められたことから、ミューオンを用いた探査は、密度の異なる地質構造の検出に有効であることが示されました。この結果から、実際の調査が及ばないような領域での断層などの地質構造の検出にも活用できると期待されます。