9-2 高い精度の超伝導コイルを製作する

−誤差磁場の低減を目的に真円に近い超伝導コイルの製作方法を確立−

図9-5 完成した三つの平衡磁場コイル

図9-5 完成した三つの平衡磁場コイル

冷却配管や支持構造物を取り付けて、JT-60SAへの据付を待っています。

 

図9-6 超伝導導体からコイルの製作まで
拡大図(165KB)

図9-6 超伝導導体からコイルの製作まで

(a)超伝導撚線をステンレス製ジャケットに収めます。(b)数値制御で超伝導導体を指定の曲率で曲げます。(c)平板状のパンケーキコイルを積み重ねます。この際、コイル全体としての真円からのずれを最小化するために、接続部を円周方向に分散し、個々のパンケーキの相対位置を調整します。

 

表9-1 平衡磁場コイルの真円度(真円からのずれ)

要求値を大きく上回る真円度を達成しました。右図に真円度の概念を示します。

表9-1 平衡磁場コイルの真円度(真円からのずれ)

 


JT-60SAは、ITERのミッション達成を支援するとともに原型炉の開発に向けた物理研究を高い機動性を持って実施できる先進的なトカマク装置として設計されています。その要求事項の一つが、核融合の燃料である数億度のプラズマを安定に宙に浮かせ、その位置と形状を自在に制御するための高精度の磁場を発生できることです。磁場は電流によって発生しますが、電流の流路である超伝導コイルの製作誤差を極めて小さく抑え、理想的な磁場形状からの乱れ(誤差磁場)を許容値以下に抑える工夫が必要です。

図9-5に、平衡磁場コイルと呼ばれる円形超伝導コイルの完成写真を示します。まず、この直径10 m前後の巨大コイルが満たすべき真円度(真円からのずれ)の目標値を上記の許容誤差磁場に基づき評価しました。その結果、直径10.5 mのコイル(EF6)において8 mm以下を達成する必要があります。この値は直径の0.1%以下に相当しますが、各製作過程において以下に示す工夫を実施した結果、高精度な超伝導コイルの製作方法を確立し、要求を大きく上回る高精度1.3 mmを実現しました(表9-1)。

(1)超伝導導体の曲げ加工の精密化

超伝導導体は超伝導撚線をステンレス製のジャケットに収めたものですが(図9-6(a))、これを所定の半径に曲げ加工する際に、三つのローラーを導体に押し当てて力を加えます(図9-6(b))。一方、導体には溶接による接続部があるため、その剛性は長手方向に一定とはなりません。その結果、一定の力配分でローラーを押し当てても曲率にむらが発生します。そこで、この力を数値制御で決定することにより、精密かつ安定な曲げ加工を実現しました。

(2)各パンケーキ間の接続部を周方向に分散

コイルを製作するには、超伝導導体を平板状に巻いたパンケーキコイルを10層程度積み重ね、これらを電気的に接続することで一体のコイルに仕上げます(図9-6(c))。誤差磁場の原因となるこの接続部を円周方向に分散することで誤差を平均化しました。

(3)積層時に個々のパンケーキの相対位置を調整

個々のパンケーキの真円度を分析した後、パンケーキ相互の位置を調整することにより、コイル全体としての真円からのずれを最小化しました(図9-6(c))。