図9-13 成長率と周波数の回転周波数依存性
図9-14 不安定性・波の空間構造のプラズマ小周方向の角度でフーリエ展開した各成分
トカマク方式の核融合炉では、核燃焼状態を定常維持することが必要です。特に、発電効率を高めるためにはプラズマの圧力を増大させる必要がありますが、高い圧力はプラズマ崩壊現象を引き起こす電磁流体力学(MHD)不安定性の原因です。そのため、高いプラズマ圧力を保ちつつMHD不安定性の発生を抑えることが、発電効率の高い核融合炉の実現には不可欠です。
このようなMHD不安定性の一つに、抵抗性壁モードと呼ばれるものがあります。この不安定性は、プラズマを囲む真空容器の電気抵抗が原因で発生しますが、プラズマを回転させることで安定化できることが理論的・実験的に示されています。しかし、安定化に十分と理論的に予測される速度でプラズマを回転させても、実験では崩壊現象がしばしば観測されています。そのため、回転しているプラズマが崩壊する原因の解明及び回避方法の考案が、安定な核融合炉を実現するには不可欠です。
本研究では、抵抗性壁モードを含むMHD不安定性に関する数値解析を行い、プラズマ回転が原因となって発生する新たな不安定性を発見しました。この不安定性は、回転により安定化された抵抗性壁モードが、プラズマ中に存在する安定な波と相互作用することで発生します。
この相互作用の原因は次のとおりです(図9-13)。プラズマ中に存在する波は特定の振動数(固有振動数)を持ちますが、プラズマが回転した場合、この固有振動数は変化します(ドップラーシフト)。一方、回転によって安定化された抵抗性壁モードは減衰する波となりますが、この波は真空容器に張り付いているため、プラズマが回転しても振動数はほぼゼロのままです。そのため、ドップラーシフトによってプラズマ中の波の固有振動数がゼロに近づくと、同じくほぼゼロの振動数の抵抗性壁モードと相互作用を起こし、新たな不安定性が生じます。この新たな不安定性は、抵抗性壁モードではなくプラズマ中の波と同じ空間構造を持つという特徴があります(図9-14)。
この新たに発見した不安定性は、プラズマ中の波の固有振動数が、回転によってゼロに近づかない限り発生しません。この固有振動数はプラズマを閉じ込める磁場構造で決まり、また、プラズマの回転による振動数の変化量は回転周波数よりも大きくはなりません。そのため、波の固有振動数がプラズマの回転周波数よりも小さくならないように磁場構造を事前に検討しておけば、この不安定性によるプラズマ崩壊現象は回避でき、高いプラズマ圧力を持つプラズマを安定に維持できます。
以上の知見は、プラズマ中の波の相互作用によって生じる不安定性の発見という物理的に価値の高い成果であるとともに、発電効率の高い核融合炉を安定に運転するために事前に検討・考慮しておくべきプラズマの設計指針を提起したものであり、核融合炉の定常運転の実現に貢献する成果といえます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(B)(No.24760712)「拡張MHDモデルに基づくエッジローカライズモード安定化・抑制に向けた理論数値研究」の助成を受けたものです。