9-4 プラズマ形状の推定精度の向上を目指して

−プラズマ形状推定システムの予測精度を最適化−

図9-10 トカマクプラズマ(ドーナッツ型)の概念図

図9-10 トカマクプラズマ(ドーナッツ型)の概念図

ドーナッツ型の真空容器内にドーナッツ型のプラズマを生成します。セントラルソレノイドコイルや平衡磁場コイルの電流を操作することで、プラズマ断面形状を制御できます。

 

図9-11 プラズマ形状推定システムが推定したプラズマ断面形状

図9-11 プラズマ形状推定システムが推定したプラズマ断面形状

仮想面に沿って置かれた計算点(○)の数を(a)6点から(b)10点に増やすと、計算コードが模擬した基準のプラズマ表面位置(□)とプラズマ形状推定システムが推定したプラズマ表面の差が大きくなることが分かります。

 

図9-12 仮想面の大きさや計算点の数の最適化による推定誤差

図9-12 仮想面の大きさや計算点の数の最適化による推定誤差

仮想面の大きさや計算点の数を最適化することで、プラズマ表面の推定誤差を目標値以下に抑えられました。

 


高性能なトカマクプラズマを真空容器などの構造物に接触させずに定常維持するためには、プラズマ断面形状を正確に制御する必要があります(図9-10)。プラズマ断面形状はプラズマに流れる電流(プラズマ電流)と磁場コイルなどのプラズマ以外の電流源が作る磁場の相関から決まるため、プラズマ電流及び断面形状制御用のセントラルソレノイドコイルや平衡磁場コイルの電流を操作することで、断面形状を制御できます。しかし、プラズマ断面形状を正確に制御するためには、プラズマ放電中にプラズマ形状推定システムを用いて、プラズマ外部に設置された計測器信号から断面形状を正確に推定する必要があります。コーシー条件面(CCS)法をベースとしたプラズマ形状推定システムは、JT-60Uのプラズマ断面形状制御に用いられており、プラズマに流れる電流と同じ役割を担う仮想面をプラズマ内部に置き、コイル電流や計測器信号からその仮想面の条件を求めることで、プラズマ表面を高速かつ精度良く推定できます。CCS法をベースとしたプラズマ形状推定システムをJT-60SAのプラズマ断面形状制御に採用するためには、JT-60SAにおけるプラズマ表面の推定精度を予測する必要があります。

そこで、計算コードが模擬したJT-60SAのプラズマ情報を基に、コイル電流と計測器信号を用意し、プラズマ形状推定システムによるプラズマ表面の推定精度を評価しました。計算コードが模擬したプラズマの表面位置を基準として、プラズマ形状推定システムが推定したプラズマ表面を比較した結果、仮想面に沿って置かれた計算点の数を増やすと、様々な形状のプラズマ断面を再現しやすくなりますが、推定誤差が大きくなることが分かりました(図9-11)。また、仮想面の大きさを増やすと、仮想面とプラズマ表面間の距離が近づくため、推定誤差が小さくなることが分かりました。これらの結果から、推定誤差を低減できる仮想面の大きさと計算点の数に関係式があると考えました。

様々な形状や分布を持つプラズマにおいて、仮想面の大きさと計算点の数を変えながらプラズマ表面の推定誤差を評価した結果、誤差が最小となる仮想面の大きさと計算点の数の関係式が分かりました。急峻な電流分布を持つプラズマに比べ、緩やかな電流分布を持つプラズマでは、推定誤差は大きくなりますが、仮想面の大きさと計算点の数を最適化することで、緩やかな電流分布を持つプラズマにおいても、推定誤差を目標値である1 cm以下に抑えられました(図9-12)。JT-60Uでは推定精度は仮想面の大きさや計算点の数にあまり依存しませんでしたが、JT-60SAなどの断面形状が縦方向に長いプラズマでは仮想面の大きさや計算点を最適化することで、推定精度が大幅に向上することを明らかにしました。これは、JT-60SAや将来の核融合炉において安定したプラズマ断面形状制御を実現する上で重要な成果です。