9-7 国際核融合材料照射施設のための原型加速器の目標性能を達成

−大電流重陽子加速器の入射系ビーム加速実験の成功−

図9-17 IFMIF/EVEDA原型加速器の全体構成図
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図9-17 IFMIF/EVEDA原型加速器の全体構成図

 

図9-18 入力マイクロ波電力とビーム電流の関係

図9-18 入力マイクロ波電力とビーム電流の関係

入力マイクロ波電力とビーム電流は線形の相関関係があります。入力マイクロ波電力によりプラズマ密度などの条件が変わるため、イオン源に導入する重水素ガス流量の調整などが必要となります。

 

図9-19 RFQ入射位置でのビーム電流とエミッタンスの関係

図9-19 RFQ入射位置でのビーム電流とエミッタンスの関係

ビーム軌道の調整の結果、所定の目標値を上回る145 mAのとき、0.25 π mm・mradのエミッタンスを達成しました。

 

図9-20 イオン源から引き出された原子・イオンビーム粒子の位相空間分布

図9-20 イオン源から引き出された原子・イオンビーム粒子の位相空間分布

この分布は一定の収束磁場を通過後のものであり、D+ビームの成分は左上から右下に、D2+,D3+ビームは未分離のまま右上から左下に分布します。エミッタンスはD+の分布面積を基にして求めます。

 


核融合エネルギーの実現に向けた原型炉開発では、発生する高速中性子による構造材料の損傷が課題です。そのため核融合反応で発生するエネルギースペクトル相似の高速中性子源による健全性実証が不可欠です。2007年から始まった日欧による国際共同事業である幅広いアプローチ(BA)活動の下、重陽子−リチウム核反応による加速器駆動型中性子源である国際核融合材料照射施設(IFMIF)の技術開発が進められてきました。IFMIFの最大の課題である40 MeV重陽子線形加速器は、大電流(125 mA加速器を2並列)かつ連続出力という特徴を有しています。同加速器の工学実証のための原型加速器は六ヶ所核融合研究所にて、図9-17に示す入射系(100 keV),高周波四重極加速器(RFQ)(5 MeV),超伝導線形加速器(SRF)の初段(9 MeV)を段階的に設置し試験を進めています。

入射系はエネルギーが低くかつ大電流(140 mA)であるため、ビームの電荷による電場でビーム自身が自己発散する空間電荷効果の影響を大きく受けます。これによるエミッタンス(ビームの位相空間における広がりを表す指標)増大はビームロスを発生させ、機器の放射化・損傷となるため、空間電荷効果の制御とエミッタンス低減(0.25 π mm・mrad以下)を達成することがビーム加速実験の課題です。

イオン源内部の不純物ガス吸着や清浄度などでプラズマ状態が変化するため、重水素ガス流量,RF電力,高周波のマッチングなどを調節しつつ脱ガスを進め、磁場分布の最適化などにより電極間放電やプラズマ不安定化などを回避し、目標を達成しつつ安定運転できる条件を確立しました。

ビーム軌道の調整などにより、図9-18に示すように全ビーム電流中のD+電流を目標の140 mA付近での最大化を達成し、図9-19に示すようにエミッタンスも目標を満たす0.25 π mm・mradを得ました。図9-20に示すように位相空間上のイオン種ごとの面積比を基にしてD+分岐比が求められ、目標値であるD+分岐比90%を達成しています。

本研究などにより開発される大電流重陽子加速器による中性子源は、高い中性子束とともに高い稼働率や信頼性が期待され、幅広い応用が考えられる技術です。今後後段の加速器のコミッショニングを行い、IFMIF施設の実現に向けた技術実証を進めていきます。