1-14 放射性セシウムは森林表層にどのくらい留まるのか?

−落葉層から土壌への放射性セシウムの移行を植生の違う森林で評価−

図1-28 リター層中の137Csの量の変化

図1-28 リター層中の137Csの量の変化

二つの森林で137Csの沈着量は同程度でしたが、リター量の多いCFでは事故後初期からリター層中に137Csが多く存在しました。リター層中の137Cs量が半分になるまでの時間は、CFで約2年、DBFで約1年でした。

 

図1-29 20 m × 20 mプロット内における森林地表面の線量率の分布

図1-29 20 m × 20 mプロット内における森林地表面の線量率の分布

図中の丸い円は木の位置を、その円の直径は木の胸高直径を表しています。沈着した放射性Csの半分以上がリターに留まっている(a)CFの方が、80%近くの放射性Csが下層土壌に移行していた(b)DBFよりも、地表面のγ線量率が高い値を示しています。また、(a)と(b)はともにγ線量率の空間分布の不均一性が大きいこと、その分布は木の位置やサイズとは無関係なことが分かりました。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性セシウム(Cs)により、広範囲の森林が汚染されました。汚染地域の森林は落葉広葉樹林(DBF)と常緑針葉樹林(CF)に大別されます。DBFは冬に葉を落とすため、3月の事故時には葉はありませんでした。そのため、放射性Csは主に地表面に沈着したと考えられます。一方、CFでは事故の時点で葉があったため、放射性Csの一部は葉に沈着し、その後、葉の落葉に伴って地表面に移行したと考えられます。私たちは、このように生態の異なる二つの森林において、放射性Csの沈着後の分布や挙動がどのように異なり、その違いが地表面でのγ線量率にどのように影響するかを調べました。

放射性Csの沈着量が同程度であるCFとDBFを対象として、事故後3ヶ月、5ヶ月、1年にリター(落葉堆積物)とその下の土壌を採取し、それぞれに含まれる放射性Csの量を測定しました。また、DBFでは事故から1.8年後、CFでは2.4年後に、それぞれの森林で20 m × 20 mの区画(プロット)中の25点でリターとその下の土壌を採取して放射性Csの量を測定し、プロット内の放射性Csの空間分布を評価しました。また、同じプロットでプラスチックシンチレーションファイバー(PSF)を使用して、地表面のγ線量率分布を調べました。

CFとDBFでリター層に存在する放射性Csの量の経時変化を比較すると、事故後初期からCFの方がリター層中の放射性Csの量が多く、さらに土壌への移行速度も遅いことが分かりました(図1-28)。これは、CFのリター量が多いこと、リターの分解速度がDBFに比べて遅いこと、そして、CFでは葉に沈着した放射性Csが落葉によってゆっくりと地表面に移行しているためであると考えられます。地表面のγ線量率の空間分布を測定した結果は、両方の森林ともに狭い範囲で大きな空間変動があることを示しました(図1-29)。γ線量率の分布はCFではリター層の放射性Csの分布と、DBFではリター層と土壌層を合わせた全放射性Csの分布と似た傾向を示しました。これらの結果より、森林の種類によって地表面の放射性Csの分布や挙動が大きく異なることが分かりました。リター層に残留している放射性Csは土壌層の放射性Csよりも植物に利用されやすい形で存在していることが知られています。放射性Csがより早く土壌層に移行するDBFでは、森林内での放射性Csの循環も小さいと考えられます。