1-13 生活パターンを考慮した住民の被ばく線量推定

−0.23 µSv/hを基準にした自宅周辺の除染は効果的か−

図1-26 確率論的な被ばく線量評価のイメージ図

図1-26 確率論的な被ばく線量評価のイメージ図

137Csの沈着量の分布及び自宅、職場、その他の場所における滞在時間の分布から入力値の組合せをランダムに10000セット作成し、1年間の被ばく線量を10000回計算しました。評価は被ばく線量分布の95パーセンタイル値を1 mSv/yと比較することにより行いました。自宅周辺の汚染には0.23 µSv/hに相当する137Csの沈着量を用いました。

 

図1-27 2016年3月からの1年間の追加被ばく線量推定値の95パーセンタイル値

図1-27 2016年3月からの1年間の追加被ばく線量推定値の95パーセンタイル値

約3分の2の地域では全ての住民グループの被ばく線量の95パーセンタイル値が1 mSv/y未満となりました。約3分の1の自治体では屋外作業者の被ばく線量の95パーセンタイル値が1 mSv/y以上となりました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により放射性物質が環境中へと放出され、事故の影響を被った地域ではその影響がいまだに継続しています。放射線防護の観点から、我が国では事故による追加の被ばく線量を年間1 mSv未満にするという長期的目標を設定しました。環境省が提示した考え方によると、年間1 mSvの追加被ばく線量は空間線量率で0.23 µSv/hにあたるとされています。本研究では、この値を基準とした除染の効果を評価するため、家屋周辺の屋外の空間線量率を0.23 µSv/hと仮定し、住民の年間被ばく線量を計算しました。

被ばく線量は、ある場所の汚染の度合とその場所での滞在時間から計算することができます。本研究では、航空機モニタリングにより測定した各自治体のセシウム-137(137Cs)地表面沈着量及び既往研究で報告されている自宅、職場、その他の場所での1日の滞在時間の実測値を利用しました。これらの実測値を基にしてCs沈着量及び滞在時間の確率分布を作成し、この分布からランダムに選択した値を入力値とする確率論的な被ばく線量評価モデルを開発しました(図1-26)。生活パターンの違いにより住民を屋内作業者(図1-27(a))、屋外作業者(図1-27(b))、自宅滞在者(図1-27(c))の三つのグループに分け、福島県の全自治体について計算を行いました。各住民グループ及び各自治体について10000回の計算を行い、1年間の被ばく線量の95パーセンタイル値を算出しました。

その結果、被ばく線量は屋内作業者が最も低く、屋外作業者が最も高くなりました。屋内作業者及び自宅滞在者の95パーセンタイル値は、旧避難指示区域内の5町村を除く全ての自治体で1 mSv/y未満となりました。一方、屋外作業者は約3分の1の自治体で95パーセンタイル値が1 mSv/y以上となりました。以上の結果から、福島県の約3分の2の自治体では自宅周辺の除染により全ての住民グループの被ばく線量が十分に低減されることが分かりました。しかしながら約3分の1の自治体では屋外作業者に対する被ばく線量管理等が今後も必要であり、さらに旧避難指示区域内の5町村については全ての住民グループに対する被ばく線量管理や自宅周辺以外の除染を今後も継続していく必要があることが分かりました。

今回は就業者及び自宅滞在者の線量評価モデルを報告しましたが、今後は子供に対する帰還後の被ばく線量評価モデルを開発していく予定です。