1-15 放射性セシウムの土壌深度方向への移動メカニズム

−収脱着速度が深度分布に与える影響に対する解析的検討−

図1-30 開発したモデル概念図

図1-30 開発したモデル概念図

拡大図(114KB)

土壌中は、固相・液相・気相で形成されています。このうち、放射性Csは液相の中を間隙水の流れや分散によって移動します。液相と固相の間で、放射性Csは収着と脱着を繰り返します。本モデルでは、固相に可逆的に収着するサイトと不可逆的に収着するサイトがあると仮定し、それぞれのサイトへの収脱着がすぐ平衡状態に至る(瞬時平衡)のではなく、時間遅れが発生すると仮定しています。

 

図1-31 解析結果と実測値の比較

図1-31 解析結果と実測値の比較

本モデルでは、既存のモデルでは表現できなかったフォールアウト初期の指数分布型や、深いところまでテーリングする傾向を表現できました。図はフォールアウトから9ヶ月後の深度分布です。正規化137Cs濃度は、137Csの単位体積あたり放射能(Bq m-3)を単位面積あたり放射能(Bq m-2)で除したものです。

 

図1-32 パラメータスタディ

拡大図(94.2KB)

図1-32 パラメータスタディ

パラメータスタディにより、フォールアウト初期の指数分布型は収着の時間遅れが影響していること、また、深いところまでのテーリングは脱着の時間遅れが影響していることが分かりました。正規化深度は、深度(m)を有効拡散深さ(m)で除したもの、正規化137Cs濃度は、137Csの単位体積あたり放射能(Bq m-3)を単位面積あたり放射能(Bq m-2)で除し、有効拡散深さ(m)を乗じたものです。

 


放射性セシウム(Cs)は土壌に収着しやすい性質がありますが、数年から数十年のオーダーで考えると、緩やかに土壌の深度方向に移動することが分かっています。土壌中の放射性Csの移動や収脱着の特性は、空間線量率の物理減衰以上の低下に寄与するほか、植物への移行や、侵食・堆積など地表面での放射性Cs移動にも影響を与えることから、放射性Csの深度方向への移行に係る物理化学的現象の解明は非常に重要です。

放射性Csの実際の深度分布は、しばしば指数分布型や、深いところまでテーリングする傾向を示します。しかし、既存のモデルの多くは正規分布型となり、上記のような傾向を表現することができません。そこで私たちは、粘土鉱物に収着したCsの観察結果や、土壌の脱着試験、現地でのCs移動観測などの結果を踏まえ、この原因が可逆的あるいは不可逆的な収脱着の時間遅れ(カイネティックス)にあると考え、それらを考慮した物理化学モデルを開発しました(図1-30)。

このモデルを用いて一般的なパラメータを設定して解析し、実測値と比較しました(図1-31)。既存のモデル(簡易拡散モデル、DSFモデル)では、指数分布やテーリング、緩やかな移動が表現できない一方、本モデルは実測値と良く整合する結果を得ました。

また、開発したモデルを利用して、可逆・不可逆の収脱着、収着速度や脱着速度の変化が放射性Csの深度分布に与える影響を調査しました(図1-32)。その結果、フォールアウト初期の指数分布型は収着の時間遅れが影響していること、また、深いところまでテーリングが生じるのは、収着速度より脱着速度が小さく、浅い箇所での脱着が時間とともに緩やかに進行していることに起因していることが推察されました。今後、深度分布の経時変化が空間線量率に与える影響を評価する予定です。