1-16 河川敷における放射性セシウムの再堆積メカニズム

−気象、地形及び植生に依存した放射性セシウム分布の不均質性−

図1-33 河川敷における空間線量率(地表1 cm高さ)、土砂の堆積状況及び土砂の放射性Cs濃度(小高川の河口から約4.5 km地点)

図1-33 河川敷における空間線量率(地表1 cm高さ)、土砂の堆積状況及び土砂の放射性Cs濃度(小高川の河口から約4.5 km地点)

河川敷の空間線量率は、場所により異なり不均質な分布をしています。また、放射性Csは泥質の土壌(@AD)に多く含まれ、砂や礫(BC)で少ないことが分かります。

 

図1-34 放射性Csの運搬・堆積メカニズムの概念モデル

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図1-34 放射性Csの運搬・堆積メカニズムの概念モデル

福島県による降雨と河川水位のデータから、1年に1回程度、高水敷まで到達するような水位上昇が確認されています。また、中程度の増水についても1年に10回程度発生していることが分かっています。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により環境中に放出された放射性セシウム(Cs)は、福島県の面積の約7割が森林であることから、その大部分が森林に沈着したと考えられます。そのため、未除染の森林から河川により放射性Csが運ばれて河川敷に堆積し、空間線量率を上昇させる可能性があります。このような河川による放射性Csの運搬と堆積状況を数値解析で予測できれば、放射性Csの移動経路を取り除くあるいは縮小することで、将来的な被ばく線量の低減につなげることに役立ちます。こうした解析手法の確立には、現象を調査により明らかにし、そのメカニズムを説明できる概念モデルの構築が必要です。

そこで、河川敷の放射性Csの堆積状況を把握するため、1F近傍の5河川流域に130地点の調査ポイントを設定し、断面形状の測量、植生調査、空間線量率測定、土壌の堆積状況調査及び土壌の137Csの濃度を分析しました。

調査の結果、放射性Csは粒径の小さな泥質の土壌で濃度が高く、粒径の大きな砂や礫で濃度が低いこと、泥質の土壌は流速が低下しやすい高水敷に堆積する一方、砂や礫は相対的に流速が速い河道付近に堆積することなどが明らかとなり、河川敷の放射性Csは不均質に分布していることが分かりました(図1-33)。
  この結果と福島県が観測している降雨量と河川の水位データに基づいて、河川における放射性Csの運搬・堆積メカニズムの概念モデルを構築しました(図1-34)。
 (1) 平常時:放射性Csは移動せず分布も変化しない。
 (2) 洪水時:台風などの大雨により、水位が高水敷を越えて上昇する。高水敷の水深は浅く河床との摩擦で流速が遅くなり、植物が群生している場合はさらに流速が低下するため、粒径の小さな泥質の土壌が堆積しやすくなる。粒径の大きな砂や礫は、流速が早く水深の深い低水路付近に堆積する。
 (3) 洪水後:水位と流速が低下し、河川水中に浮遊していた泥質の土壌は河川敷の広い範囲に堆積する。
 (4) 中程度の増水時:砂や礫の上に堆積した泥質の土壌が流出、または上流から運ばれてきた砂や礫が泥質の土壌の上に堆積する。泥質の土壌の流出や再堆積した砂や礫の遮へい効果で高水敷の空間線量率が相対的に高くなる。
 (5) 平常時の水位に戻る。

今後は、本研究で作成した概念モデルに基づいて、河川敷での放射性Csの運搬・堆積メカニズムに係る解析手法の確立を目指した調査研究を進めていきます。