2-4 地層処分場の緩衝材が劣化する速さを理解する

−アルカリ性環境における圧縮モンモリロナイトの変質速度−

図2-10 高レベル放射性廃棄物地層処分システムの概念図

図2-10 高レベル放射性廃棄物地層処分システムの概念図

ガラス固化体は、オーバーパックに密封され、その周辺を緩衝材(ベントナイト)で覆われた状態で深地層中に埋設されます。また、高アルカリ成分を溶出するセメントが、処分坑道の落盤を防ぐ支保工などに使用される可能性があります。

 

図2-11 高アルカリ性溶液に対するモンモリロナイトの変質速度

図2-11 高アルカリ性溶液に対するモンモリロナイトの変質速度

圧縮モンモリロナイトの変質速度は、従来研究で評価された圧縮ベントナイト中のモンモリロナイト変質速度よりも速くなりました。これは、圧縮ベントナイト内のOH-濃度は共存鉱物との反応によって低下しており、従来の変質速度式ではモンモリロナイトの変質速度を過小評価していたことを示しています。

 


高レベル放射性廃棄物の地層処分では、ガラス固化体を収納した鉄製容器(オーバーパック)の周囲をしめ固めた粘土系緩衝材(圧縮ベントナイト)で覆い、深地層中に埋設します(図2-10)。圧縮ベントナイトには、物理的緩衝機能のほかに、低透水性及び吸着性により地下水中に溶けた放射性核種の処分場外への漏出を抑制する機能が期待されています。圧縮ベントナイトの特性は、主成分のモンモリロナイトの含有量に依存するとされ、この機能を長期にわたり期待するためには、処分場で使用されるセメントから溶出するアルカリ成分によりモンモリロナイトが他の鉱物に変質する挙動を定量的に評価する必要があります。

私たちの従来研究では、圧縮ベントナイトのアルカリ変質試験を実施し、モンモリロナイト変質速度を定式化しました。しかしながら、その試験では、モンモリロナイト以外の共存鉱物の変質に伴う圧縮ベントナイト内部のOH-濃度の低下が、モンモリロナイトの変質挙動にどの程度の影響を及ぼすのかについては把握できていませんでした。

そこで本研究では、不純物をほとんど含まない圧縮モンモリロナイトの変質試験を50〜130 ℃で実施し、結果を定式化して従来の式と比較することで、圧縮ベントナイト中のモンモリロナイトの変質挙動へ及ぼす共存鉱物の影響を考察するとともに、当該影響を排除した圧縮モンモリロナイトの変質速度式を導出することとしました。

本研究により得られた圧縮モンモリロナイトの変質速度(RA)をOH-活量(aOH-)と温度で整理し(図2-11)、以下のように定式化することができました。

 RA=30000・(aOH-1.3・exp(−55000/RT)(kg m-3 s-1

ここでRは気体定数、Tは絶対温度です。圧縮モンモリロナイトの変質速度は、従来研究で評価された圧縮ベントナイト中のモンモリロナイト変質速度よりも速いことが分かりました。これは、圧縮ベントナイト内のOH-濃度は共存鉱物との反応によって低下していたことを示しており、従来の変質速度式(RA=3500・(aOH-1.4・exp(−51000/RT))では内部のOH-濃度を過大評価していたこと、すなわち変質速度を過小評価していたことが明らかとなりました。

本研究で得られた変質速度式を開発中の地球化学解析コードに導入し、OH-濃度の低下を伴う共存鉱物の変質とモンモリロナイトの変質を同時に評価することが可能となりました。

本研究の一部は、経済産業省原子力安全・保安院(現原子力規制委員会原子力規制庁)からの受託研究「平成20年度放射性廃棄物処分の長期的評価手法の調査」として実施しました。