図2-9 B4C制御棒の溶融進展
図2-10 (a)制御棒のB4C酸化割合と(b)酸化に伴う生成物(B4C酸化量とB2O3を含む生成量)
軽水炉シビアアクシデント(SA)に関する安全規制に活用できる技術的知見の取得を目的に、放射性物質(特にヨウ素(I)及びセシウム(Cs))の化学的挙動に着目したソースターム評価研究を行っています。沸騰水型原子炉(BWR)では制御棒の中性子吸収材に炭化ホウ素(B4C)を使用しており、その酸化で生成されるホウ素化学種は原子炉冷却系内におけるIやCsの化学反応に影響を及ぼします。これらの化学種の変化はその後の移行挙動に影響することから、B4C酸化量の評価は非常に重要です。しかし、BWR制御棒(図2-9(a))ではSA時の温度上昇によって内部からステンレス鋼被覆部とB4Cの共晶溶融が進行し、被覆部が破損して初めてB4Cの酸化が開始するなど、その進展は複雑です(図2-9(b))。特に、B4C/ステンレス鋼間の共晶溶融により反応面積が低下し、B4C酸化反応速度に影響することから、解析には炉心損傷進展を考慮可能なSA総合解析コードが必要です。
本研究では、BWR制御棒形状に適用可能なB4C酸化モデルを構築し、SA総合解析コードTHALES2に導入するとともに事故解析に適用しました。東京電力福島第一原子力発電所と類似のプラントを想定し、原子炉減圧操作の有無により原子炉冷却系内の雰囲気条件が大きく異なる二つの事故シナリオ(減圧操作を実施するTQUVと実施しない全交流電源喪失TB)を解析対象としました(図2-10(a)(b))。
二つの事故シナリオで共晶溶融の割合は同程度ですが、B4Cの酸化割合が大きく異なります。減圧により水蒸気枯渇状態で炉心損傷が進展したTQUVでは全交流電源喪失シナリオTBよりも酸化が抑制されるなど、B4C酸化量の事故シナリオ依存性が明らかとなりました。また、B4C酸化により、ホウ素酸化物(B2O3)に加えて二酸化炭素などのガスも生成されます。これらは原子炉冷却系内のIやCsの化学反応に影響を及ぼすだけでなく、格納容器に移行することで液相からのガス状ヨウ素(I2、有機ヨウ素)の放出挙動への影響が大きい格納容器液相のpHを変化させます。
今後は、別途開発中の原子炉冷却系内化学反応モデルとの連携によって、生成されるI及びCs化学種やその後の移行挙動B4C制御材の影響について検討を進めます。さらに、格納容器内のヨウ素化学反応モデルとの連携により、環境への放出量を評価する予定です。