2-4 原子力災害時の自動車内外で被ばくの違いを評価する

−放射線挙動解析のための自家用車モデルの開発とその適用−

図2-11 放射線挙動解析のための自家用車モデルの開発

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図2-11 放射線挙動解析のための自家用車モデルの開発

放射線挙動解析のための自家用車の簡易モデルを開発して、被ばく低減係数を評価し、実測に基づく値と比較してみました。この結果、両者はおおむね一致しており、モデルの妥当性を検証することができました。

 

図2-12 原子力災害時のクラウドシャインとグランドシャインに対する被ばく低減係数

図2-12 原子力災害時のクラウドシャインとグランドシャインに対する被ばく低減係数

開発したモデルを利用して、自家用車の被ばく低減係数を評価しました。被ばく低減係数は、自家用車の重量、被ばく経路、放射線のエネルギーによって変動していましたが、クラウドシャインからの被ばくはおよそ1〜3割、グランドシャインからの被ばくはおよそ3〜4割低減されることが分かりました。

 


原子力災害時の避難は、住民の被ばくを回避するための基本的な防護措置の一つであり、全ての原子力発電所立地道県において、自家用車での避難が基本的な手段の一つとして避難計画において定められています。

自家用車避難においては、避難のタイミングや経路を誤った場合、飛来した放射性物質からの被ばくや沈着した放射性物質からの被ばくが生じます。このような事態を想定し、避難時の被ばくの程度を考慮した上で、効果的な防護戦略を計画するためには、自家用車の遮へいによって、どの程度の被ばくを低減できるのかを評価しておく必要があります。しかし、このような目的に適した自家用車の評価モデルは提案されていませんでした。

本研究では、車両重量Mに着目し、以下の評価式を使って車体の厚さdを算定し、図2-11に示すように、形状を直方体と仮定して、放射線挙動解析のための自家用車モデルを開発しました。

M-M0 = ρ·d·S

ここで、M0は屋根と窓の重量、Sは車両の表面積、ρは鋼板の密度です。屋根は厚さが他の箇所とは明確に異なるため、メーカーに問い合わせて得られた回答を基に0.8 mmと設定しました。車両の形状に関する情報については、諸元表等の公開情報のみを使って設定し、車両の表面積Sを算出しました。

開発したモデルでMCNP–5による放射線挙動解析を行い、日本国内の代表的な自家用車4車種について、グランドシャインに対する被ばく低減係数を評価しました。

また、評価結果の再現性を確認し、モデルの妥当性を検証するため、福島県内の平坦な場所において、上記の4車種を含む8車種について、グランドシャインに対する被ばく低減係数を実験的に評価しました。モデルによる評価結果と、実測による評価結果を比較して図2-11に示します。実測に基づく被ばく低減係数は、車両重量とともに小さくなる傾向が見られました。これは車両重量とともに車体の厚さdが厚くなるためであると考えられ、本研究で開発したモデルでの評価結果も同様の傾向を示し、実測の結果を良く再現することができました。

このように開発したモデルを使って、国内の代表的な4車種について、クラウドシャインとグランドシャインに対する被ばく低減係数を評価しました。なお、クラウドシャインに関する解析では、γ線エネルギーとして0.4 MeV、1 MeV及び1.5 MeVと仮定しました。評価の結果、クラウドシャイン及びグランドシャインに対する被ばく低減係数は、車両重量とγ線エネルギーに応じて変動し、それぞれ、0.66〜0.88及び0.64〜0.73(地表面に分布している場合)となりました(図2-12)。

自家用車での避難をより効果的に行うためには、本研究で評価した被ばく低減効果だけでなく、他の防護措置と組み合わせて最適な戦略を事前に策定し、避難時に適切な行動をとることも必要になってきます。今後は、今回の成果も活用しつつもこれらの点を考慮して、被ばく低減効果が高くかつ実現可能性の高い自家用車避難等、原子力防災の最適化研究を実施する予定です。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁の委託研究「平成27、28年度原子力施設等防災対策等委託費(防護措置の実効性向上に関する調査研究)事業」の一環として実施されました。