図2-13 実験装置の概略図
図2-14 気相条件とRuの沈着挙動
図2-15 (a)配管沈着Ru及び(b)フィルタ回収Ruの外観
再処理施設の安全性を確認するためには、頻度は低いが、発生した場合には大きな影響を与える「重大事故」についても考慮し評価することが重要です。
使用済核燃料の再処理時に生じる高レベル濃縮廃液は、含有する放射性物質の崩壊熱により加熱された状態にあり、再処理施設では常にこれを冷却しています。何らかの障害によりこの冷却機能が失われた場合、廃液の沸騰や乾固に至り、放射性物質が放出されるおそれがあります。この事故は、重大事故の一つとして定義されており「蒸発乾固事故」と呼ばれています。
この事故が発生した際の安全性を評価するためには、事故時の放射性物質の移行挙動を把握することが求められます。フランス原子力庁や原子力機構で過去に実施した廃液の加熱試験から、特にルテニウム(Ru)は加熱時に揮発性の化合物を形成し、他の元素よりも放出される割合が大きくなることが知られています。この性質に加え、Ruは放射性同位体(106Ru、103Ru)を持つことから、公衆への被ばく評価を行う上で重要な元素です。
私たちはこのRuの事故時の移行挙動を評価するための実験装置(図2-13)を製作し、実験を行いました。気体状Ruとして四酸化ルテニウムを用い、施設内の移行経路を模擬したガラス製の配管中(図2-13恒温槽)に供することでRuを沈着させ、その分布から移行挙動を評価しました。基礎的なデータを得るために空気中や水蒸気中での実験を行い、蒸発乾固事故で生じる気相雰囲気を模擬した条件として硝酸を含む水蒸気を用いた実験を行いました。
図2-14に、各実験で得られたRuのガラス配管に対する沈着割合の結果を示します。また、図2-15に、空気を用いた実験における配管のRuの沈着の写真及び水蒸気を用いた実験後のガラスフィルタの写真を示します。空気中では投入したRuのほぼ全量が配管へ沈着しました。水蒸気中ではRuの多くが配管内へ沈着したものの、投入量の30 %程度がガラスフィルタ中で回収されました。これは配管内でRuの微粒子が形成されたことを示しています。一方で、硝酸を含む水蒸気を用いた場合にはRuの沈着は観測されませんでした。これは硝酸が気体状Ruを安定化する効果を持つためと考察しています。
これらの結果は、事故時のRuの移行挙動のほか、発生した気体状Ruの吸着除去を行う上でも有用な情報であり、再処理施設の安全性評価上重要な知見であると考えられます。