2-6 環境試料中のウラン微粒子から核物質の履歴を推定

−保障措置のための単一ウラン微粒子の化学形・同位体比データの取得−

図2-16 ウラン微粒子の化学形・同位体比分析の流れ

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図2-16 ウラン微粒子の化学形・同位体比分析の流れ

数µm程度の極めて小さいウラン微粒子を対象に、顕微ラマン分光分析と二次イオン質量分析による測定方法を組み合わせた、新たな分析手順を開発しました。

 

図2-17 標準ウラン微粒子から得られたラマンスペクトル

図2-17 標準ウラン微粒子から得られたラマンスペクトル

複数のピークの位置から、UO2の構造を持つことが分かります。

 

図2-18 235U/238U同位体比分析結果

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図2-18 235U/238U同位体比分析結果

ラマン分光測定を行った後のウラン微粒子に対して、正確に同位体比を分析することができました。

 


原子力発電の燃料として用いられるウラン(U)は、質量数の異なる同位体を有しています。特に、235Uの存在割合(ウラン濃縮度)はその用途によって変化し、原子力発電用の燃料では濃縮度が数%の低濃縮ウランが用いられます。さらに、濃縮度が90 %程度になると、核兵器の原料として用いることができます。私たちは、国際原子力機関(IAEA)が世界各国の原子力関連施設で採取した環境試料中に含まれるUやプルトニウム微粒子の同位体組成を分析し、軍事目的に利用できるような核物質がないかを調べています。

また、燃料サイクルの過程では、ウラン鉱石の製錬や転換、濃縮、燃料への加工など多くの工程があり、各工程に適した化学形のUが用いられます。例えば、製錬では八酸化三ウラン(U3O8)、原子力発電用の燃料としては二酸化ウラン(UO2)が用いられます。そのため、ウラン微粒子の同位体比の情報に加えて、化学形も判別できれば、各施設で行ったU取り扱い履歴の詳細な推定が可能になると期待されています。しかし、これまでは一つのウラン微粒子に対して同位体比と化学形の双方を分析した例はありませんでした。

そこで私たちは、顕微ラマン分光分析と質量分析を組み合わせた新たな分析技術を開発しました(図2-16)。電子顕微鏡下においてウラン微粒子を特定し、微細なガラス針を用いて測定用試料台に移送します。次に、顕微ラマン分光(レーザー光を粒子に入射し、粒子から出るラマン散乱光との波長のずれを観測すること)により、その化学形を分析します。その後、二次イオン質量分析(一次イオンを粒子に照射し、粒子から放出される二次イオンを質量分離すること)により同位体比を分析することで、一つのウラン微粒子の化学形と同位体比の両方を明らかにできます。

図2-17には、代表例として化学形がUO2であり、天然の同位体組成を持つ標準ウラン微粒子から得られたラマンスペクトルを示しました。445 cm-1、576 cm-1、1150 cm-1の位置にUO2の構造に由来したピークが観測されたため、その化学形を正しく判別できました。また、図2-18にはラマン分光分析を行った後に、質量分析によって標準ウラン微粒子10個の同位体比を測定した結果を示しました。全てのウラン微粒子で天然の組成(235U/238U = 0.00725)と良く一致した測定結果が得られ、開発した手法によりウラン微粒子の化学形と同位体比の両方を正しく分析することができました。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁の委託研究「平成29年度保障措置環境分析調査」の成果の一部です。