3-4 ウラン化合物で現れる磁場に強い超伝導の仕組みを解明

−極低温における高精度核磁気共鳴測定が明らかにした新しい電子状態−

図3-9 超伝導の概念図

図3-9 超伝導の概念図

物質中の多数の電子()は電子スピン(黒矢印)と呼ばれる磁石のような性質を持ちます。この電子スピンを互い違いの方向に向けてクーパー対と呼ばれる対を組み、波()のように流れる(黒矢印)ことで超伝導状態となります。

 

図3-10 超伝導電子対に磁場(-)をかけたときの振る舞い

図3-10 超伝導電子対に磁場()をかけたときの振る舞い

(a)通常はスピンが磁場方向に倒れ、クーパー対が壊れます。
(b)ウラン化合物URu2Si2ではスピンが一方向に向いており、磁場で倒れないため、強い磁場下でもクーパー対が保たれます。

 


超伝導現象は電気抵抗が完全にゼロとなるため、リニアモーターカーを始め、実用的な現象として利用されています。しかし、超伝導を作るにはとても低い温度を作らなければならないことや、超伝導は磁場にも弱く、強い磁場で壊れてしまうことがより幅広い分野での実用化にあたって障害となっています。そのため、より高温で超伝導になるものや、より強い磁場に耐えられる超伝導体の研究が現在も盛んに行われています。

現在原子力機構で精力的に研究を進めているウラン化合物URu2Si2の超伝導は、磁場に非常に強いという性質を持っており、その原理の解明が重要な課題となっていました。しかし、核燃料物質であるために取扱いが難しく、これまでの研究では十分な精度の測定ができていませんでした。そこで、原子力機構の施設を活用することで、超純良な単結晶ウラン化合物URu2Si2を新たに合成し、測定に最適な形状(直径1 mm、長さ2 mm程度の円柱型)に加工しました。その結果、極低温(約−273 ℃)領域におけるウラン化合物の超伝導状態において世界最高精度の核磁気共鳴測定に成功しました。核磁気共鳴法は物質中の原子核が持つ磁石のような性質(核スピン)を通して、原子核の周りにある電子を微視的に調べる手法で、超伝導を作りだす電子の状態を知ることができます。

物質中の多数の電子は、電子スピンと呼ばれる磁石のような性質を持っており、各電子スピンの向きは普段はバラバラの方向を向いています。その電子間に引力が働くと、電子はスピンの向きを互い違いの方向に向けてクーパー対と呼ばれるペアを作り、整列した波のような状態を作ることで超伝導状態になります(図3-9)。ここに強い磁場を近づけると、電子スピンは磁場の向きに倒れてしまうため、クーパー対を組めなくなり超伝導は壊れることが知られています(図3-10(a))。今回私たちは、高精度核磁気共鳴測定により、URu2Si2の電子スピンは一方向に向いており、強い磁場下でも倒れない新しい状態になっていることを実証しました。そして、この電子状態のために、本物質では磁場に強い超伝導が実現していることが分かりました(図3-10(b))。この成果は超伝導現象の理解を深めるとともに、より実用的な超伝導体の探索に指針を与えるものと期待されます。また、このような新しい状態は、非常に多くの電子を持つウランが起源となって現れる新しい状態と考えられ、今後の基礎物性物理学の進展、原子力基礎科学の充実に寄与するものと思われます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(B)(No.16K17757)「多極子秩序と共存する新奇超伝導状態の微視的解明」の助成を受けたものです。