4-1 マイナーアクチノイドの核データ精度向上を目指して

−中性子共鳴構造を使った熱中性子捕獲断面積実験データの評価−

図4-2 241Amの熱中性子捕獲断面積の比較

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図4-2 241Amの熱中性子捕獲断面積の比較

(a)放射化法で測定された熱中性子捕獲断面積は、飛行時間法による実験データより大きくなる傾向がありました。図には、核データライブラリJENDL-4.0での値と誤差を横線と帯で示しています。(b)放射化法による実験データへ開発した補正法を適用することで、飛行時間法の値と実験誤差の範囲内で整合することが分かりました。これにより、捕獲断面積全体の一層の高精度化が可能になると期待されます。

 

図4-3 241Amの捕獲断面積に見られる中性子共鳴構造

図4-3 241Amの捕獲断面積に見られる中性子共鳴構造

241AmのようなMA核種には、0.5 eV以下にも中性子共鳴が存在する核種が多くあります。この低エネルギー領域の中性子共鳴構造は、MA核種だけでなく、UやPuを含む重い核種でよく観測される特徴です。この中性子共鳴構造を反映した熱中性子捕獲断面積の厳密な補正法を開発しました。

 


原子炉で使用された核燃料中には、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)などと中性子との核反応によって生成されたマイナーアクチノイド(MA)が蓄積しています。MA核種の多くは寿命が長く、毒性が強いため、それらの管理や処理処分を適切に行う必要があります。この負担を軽減する目的で、MA核種による有害度を低減するための研究開発が進められており、そのシステム設計に必要となる基盤データの一つが捕獲断面積です。熱中性子エネルギーにおける断面積(熱中性子捕獲断面積)は、捕獲断面積の規格化にも利用され、全エネルギー領域の精度向上にとって極めて重要な基盤データです。

熱中性子捕獲断面積は、飛行時間法と放射化法で測定されてきました。飛行時間法は熱中性子エネルギーのみならず広いエネルギー範囲における捕獲断面積の導出に威力を発揮しますが、絶対値の決定には大きな実験誤差を生じる可能性がありました。一方、放射化法は熱中性子エネルギーなど局所的ではあるものの、捕獲断面積の絶対値を容易に導出することが可能であり、その精度も高いと考えられてきました。

これらの実験解析法によって導出されたMA核種の熱中性子捕獲断面積には、実験誤差の範囲を超えた大きな食い違いが生じていることが知られていました。図4-2(a)に、アメリシウム-241(241Am)に対して飛行時間法と放射化法で導出された熱中性子捕獲断面積の実験データを示します。この図に見られる矛盾を解決することが、精度向上に不可欠でした。

本研究では、多くのMA核種に特有な低エネルギー領域の中性子共鳴構造(図4-3)と、放射化法の解析で利用されるカドミウム(Cd)比法の関係に着眼しました。Cd比法では、大きな熱中性子捕獲断面積を持つCdの特徴を使って、0.5 eV以下の中性子成分を含む場合と含まない場合の照射を行い、その差から中性子共鳴の効果を除去して熱中性子捕獲断面積を導出します。0.5 eV以下の低エネルギー領域に中性子共鳴が存在する場合、過去の実験解析でその影響が適切に考慮されていないことに私たちは注目し、核データライブラリに収録されている中性子共鳴構造を使って、この影響を補正する手法を開発しました。

この手法を241Amの熱中性子捕獲断面積の実験データへ適用した結果を図4-2(b)に示します。実験解析法の問題により生じていた断面積値間の矛盾が解消され、実験データが誤差の範囲で整合することが分かりました。

本研究で開発した手法は汎用性があり、低エネルギー領域に中性子共鳴を持つ全ての核種へ適用することで、熱中性子捕獲断面積の系統的な高精度化が期待されます。

本研究は、文部科学省の原子力システム研究開発事業「マイナーアクチニドの中性子核データ精度向上に係る研究開発」の成果です。