表4-1 Air及びAir/H2O雰囲気試験におけるMIケーブル被覆材の破損時間の予測
図4-18 ヨウ素を含んだ混合ガス雰囲気試験後の表面XRD分析結果
原子力発電所で使用されている計装用低圧ケーブルの絶縁材や被覆材として、高分子材料が主に使用されていますが、東京電力福島第一原子力発電所事故の経験を踏まえると、さらなるケーブルの耐性向上が必要です。一方、過酷事故発生時の炉内環境は、高温、核分裂生成物、大気露出といった複合環境と推測され、計測ケーブル被覆材の腐食による早期損傷が懸念されます。そこで、材料試験炉(JMTR)での計測技術開発で培われた知見をもとに、過酷事故発生時の環境下でも耐え得る金属被覆無機絶縁(MI)ケーブルの開発に着手しました。
MIケーブルを構成する被覆材、絶縁材及び芯線の材料は、過酷事故環境における耐熱性及び耐放射線性を有する材料を選定しました。このうち、被覆材については、高温高圧、水蒸気、酸化雰囲気に耐えられ、汎用性の高いオーステナイト系ステンレス鋼SUS316及びニッケル基合金NCF600を選定しました。
まず、核分裂生成物が存在しない雰囲気における腐食特性を評価するため、模擬大気(Air)及び模擬大気に水蒸気を添加した(Air/H2O)雰囲気下で、重量変化を測定し、暴露初期の酸化速度を算出しました。実際のMIケーブル被覆材の厚みを考慮して、破損時間を予測した結果、NCF600の方がSUS316よりも約4倍以上長く使用可能であり、事故終息まで十分に計測ができる見通しを得ました(表4-1)。
次に、燃料が破損し、核分裂生成物であるヨウ素ガスが含まれた環境を模擬した条件(温度800 ℃、暴露時間96 h)では、SUS316表面には、腐食生成物が不均一に形成され、容易に剥離することが確認されました。この結果は、酸素及び水蒸気を含んだ雰囲気よりもさらに複雑な腐食特性を有していることを示唆します。一方、NCF600の表面は均一な酸化皮膜が形成されましたが、X線回折(XRD)分析で検出できないほどの薄さであることが確認されました(図4-18)。この結果からも過酷事故時ではNCF600が良好な材料である見通しが得られました。
本結果で得られた知見をもとに、MIケーブルの基本仕様を決定するために、放射線環境下における電気特性を含めた総合的な評価を行い、原子力発電所への適用性について検討しています。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁の委託事業「平成28年度発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業(特殊環境下で使用可能な監視システム高度化(」の成果の一部です。