図7-5 超音波法による音速測定の概要
図7-6 ヤング率と密度、Pu含有率及びO/Mの関係
照射中の燃料ピンの健全性を確保するためには、燃料と被覆管との機械的な相互作用(FCMI)による被覆管の破損を防止する必要があります。このFCMIの挙動を評価する上で、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料のヤング率等の機械的性質は重要な物性です。ヤング率はMOX燃料の密度やプルトニウム(Pu)含有率の影響を受けることが知られています。また、MOX燃料中の酸素(O)と金属(U及びPu)の原子数比(O/M比)の影響も受けることが予想されます。しかしながら、これらの影響を総括的に評価し、定式化した例はこれまでありませんでした。
そこで私たちは、密度、Pu含有率及びO/M比をパラメータとして様々なMOXペレットを作製し、超音波法によりMOXペレット中を伝播する音速を測定しました。超音波法による試験の概要を図7-5に示します。超音波法では、超音波の発信用探触子と受信用探触子によって超音波が伝播する時間を測定します。超音波が伝播する時間と距離が分かれば、その速度が分かります。得られた音速のデータから、ヤング率等の機械的性質を導出することができます。
このようにしてヤング率を評価した結果(図7-6)、密度が低くなるとヤング率が大幅に低下することが分かりました。このヤング率の低下は、MOXペレット内に気孔が増加し、力を受ける有効断面積が減少して強度が低下したためと考えられます。
Pu含有率の影響については、Pu含有率が大きくなるとヤング率は上昇することが分かりました。これまでの研究から、Pu含有率が大きくなると原子間距離が短くなることが分かっています。これは原子間の結合力が強くなっているためと考えられ、ヤング率の上昇は原子間の結合力の増加によるものと考えられます。また、O/M比が低くなるとヤング率は低下する結果が得られましたが、これも同様に原子間の結合力の低下によるものと考えられます。
今回取得したデータから、密度、Pu含有率及びO/M比をパラメータとしてヤング率等の機械特性を計算する式を導出しました。これにより、正確な物性値を用いてFCMIを評価することが可能となり、MOX燃料の設計技術に貢献することができました。
今後は、今回取得した機械的性質に加えて、熱伝導率等の様々な性質を合わせて解析することで、MOX燃料の物性を統合的かつ機構論的に評価したいと考えています。