図7-7 燃料ピンのCs濃度の軸方向分布
図7-8 燃料ピンの被覆管外径歪みの軸方向分布
高速炉の混合酸化物(MOX)燃料ピンでは、燃焼が進むに伴い核分裂生成物(FP)のセシウム(Cs)が温度の低い部分に向かって移動し、他のFPと化合物を形成することにより、燃料ペレットの温度や被覆管の寸法に影響を及ぼすことがあります。このようなCsのふるまいを予測するため、Csのふるまいを解析するモデルを開発し、照射中の燃料ピンに生じる温度変化や被覆管に加わる荷重と変形を予測する計算コード(CEDAR)に組み込みました。これにより、照射中の燃料ピンに生じたCsのふるまいとともに、それが燃料ピンに及ぼす影響を予測できるようになりました。
Csのふるまいのうち、燃料ピン内の移動については、過去の研究結果から、Csの熱拡散と蒸発・凝縮のプロセスで移動するモデルを開発し、CEDARによる燃料ペレットの温度分布を基に、Csが燃料ピン内を径方向や軸方向に移動する現象を解析できるようにしました。フランスの高速原型炉“Phenix”で高燃焼度まで照射した燃料ピンのCs濃度分布を解析した結果を図7-7に示します。照射中にCsが燃料ピン内を移動してMOX燃料ペレット部の上下端に蓄積し、Cs濃度が局所的に高くなった状況を解析で再現することができました。
Csの化合物については、酸素(O)やウラン(U)、モリブデン(Mo)などのFPとの化学平衡計算を行い、様々な化合物の形成状態を予測するモデルを開発しました。このモデルもCEDARの燃料温度や酸素量を反映してCs化合物の形成状態を解析します。
高燃焼度燃料ピンの解析では、Cs化合物はCs-Mo-O系とCs-U-O系の化合物がほとんどを占める結果になりました。前者の化合物は燃料ペレットと被覆管との隙間に堆積することで、燃料ペレットの温度を下げる効果があると考えられています。解析では、この化合物はMOX燃料ペレット部の軸方向全域にわたって形成し、実際の形成状態と整合しました。後者の化合物はCsの蓄積部で主に形成しますが、その密度が燃料よりも低いため、膨張により燃料ペレットと被覆管が接触する原因になることがあります。解析では、Cs-U-O系酸化物がMOX燃料ペレット部の下端に蓄積することにより、被覆管と燃料ペレットが接触し、被覆管に荷重が加わりましたが、被覆管の外径寸法への影響は小さく、図7-8に示すように、被覆管の外径歪みの測定結果を適切に再現することができました。